三芳町産業祭withみよし芸術祭

10月〜11月のロングジャーニーを締めくくるのは、埼玉県三芳町の祭。みよし芸術祭は秋のシーズンいっぱいにさまざまなイベントが開催されますが、毎年11月上旬の週末には三芳町産業祭とのタイアップイベントが設けられ、そこがお祭りのピークとなり多くの人で賑わいます。題して「三芳町産業祭withみよし芸術祭」。第41回目となる今年、初めて神田将をお招きいただき、前夜祭と当日の2ステージで演奏してきました。

前夜祭は今回が初の試みということで、主催の皆さんもいろいろ手探りではありながらも、ご来場の方々に喜んでもらいたいという熱い気持ちが溢れていて、企画段階からとてもワクワクしていました。

当初は屋外の特設ステージでという案も出ていましたが、さすがに11月の日没後は寒いだろうとなり、三芳町自慢の美しいホール「コピスみよし」を使えることに。そして豪華にゲストふたりを迎えてトリオ体制での演奏が実現するなど、企画が進むにつれどんどんグレードアップしていきます。

迎えたゲストはフルートの玉村三幸さんとヴォーカルのsatiさん。それぞれ持ち味もジャンルも異なるので、それをどう調和させるのかが私の腕の見せどころ。そして、お客様にとっては一度で二度、いや三度おいしいステージが楽しめるというわけです。

リハーサルは本番前夜の一度きり。玉村さんとは1年半ぶりに合わせましたが、つい昨日も一緒でしたよねってくらいに息ぴったり。ここしばらくは声楽との合わせが続きました。声楽と器楽とでは合わせるポイントや持っていき方が大きく異なり、歌には音というより言葉で寄り添う、言葉を引き出すという視点で合わせますが、器楽は音で対話します。

そして何より心地よいのは、互いの音が完全に融和する瞬間です。かつては生音とエレクトーンは融和し得ないと諦めかけていましたが、玉村さんとサクソフォンの波多江さんがとことん付き合ってくれたことで、今では完全融和の感覚が楽しめるようになりました。

この融和感は、器楽同士ならではだと思っていたのですが、最近は歌ともそれが図れるようになってきました。その感覚を教えてくださったのは、東京混声合唱団の山田先生です。私の演奏会にお越しの際は、そんな瞬間をぜひキャッチしてほしいです。

話が逸れましたが、satiさんとの合わせは、これまた自由で楽しい時間です。特に話題のないふたりがテーブルに向き合って、なんとなく気まずい空気が流れているところに、ふとしたキッカケで会話が弾み、いつしか盛り上がって笑い合っている。satiさんとの合わせはいつもそんな感じです。無理に作り込もうとせず、場が熟すのを待つという感覚。この日もまた、恥ずかしがり屋の天使が、ためらいがちに降りてくるのが見えました。

リハーサルが終わったらエレクトーンの積み込み!今回は上田海斗がレンタカーでエレクトーンを運びます。東京労音の鈴木真紀子さんが、丁寧に丁寧に細かい細かく積み方を指導してくれ、エレクトーンがきっちりと固定されました。心配なので私も便乗して一緒に運搬。これならどこにでも行けそうです。

当日は、ホールでゆっくりリハーサルする時間を設けていただき、リッチな響の中で気分よく稽古しました。フルートの生音とエレクトーン、そしてマイクを通じて響き渡るsatiさんの歌声とエレクトーン。それらがいい感じになるのはわかっていましたが、3人のアンサンブルがどうなるのかは少々心配。フルート、声、エレクトーン、それぞれ音の出場所が違うのに、客席ではまとまって聞こえて安心しました。

さて、開場時間。チケットもなく、聞きたい人が直接ホールに足を運んで自由に楽しむというスタイルで、前例もないため、どのくらい集まってくださるのか見当もつきません。でも、満席とはいかないまでも拍手が心地よいくらいに賑わい、演奏会らしい雰囲気になりました。

エレクトーンソロ、フルートとのアンサンブル、コンパクトジャズの歌。クラシック、映画の曲、懐かしいメロディなどなど、お客様がご存じの曲が多かったようで、たいへんご好評いただきました。

一度帰宅して、翌日もまた三芳町へ。昨晩は前夜祭のコンサートしかなかったので、周辺含め静かでしたが、産業祭当日はたいへんに賑わいに。食べ物を販売するブースが並び、どれもこれも美味しそうな匂いで誘ってきますし、面白いものがたくさん売っています。消防車は子どもたちに大人気で、大人には遺産相続の相談ブースまで設けられています。

目の悪い私は、あらあら、なんて美しい白薔薇だろう、しかもこんな大輪が見事に咲きそろっているなんて!と感激して近づいたら、それは束ねられたカブが並んでいるところでした。それにしても美しいカブだこと。白薔薇に負けないほど白く傷ひとつありません。よく見ると、一等賞など、位がつけられています。そしてちゃっかり値札もチェックしましたが、え、こんなお手頃なら来年はトラックで来て買っちゃおうかと思うほど。煮て食べたら美味しいでしょうね。

それはさておき、私も演奏が控えています。でもちょっと気になるのが「車人形」のステージ。昨日演奏させてもらったコピスみよしホールでは、地域に伝わる伝統の車人形が上演されるというので見せてもらいました。こういう伝統芸能はいいですね。心が和みます。

私の演奏はちょうどお昼どき。屋外の特設ステージで、どなたでも自由に聴けるので、おそらく演奏目当てで来ている人は少なく、祭のついでにたまたま立ち寄った方々が聞いていたのだと思います。でも、だからこそ腕が鳴りますね。あっと驚いていただきましょう。

ということで、少し派手目のクラシックに、ふだん弾かないアップテンポな曲を織り交ぜて、パワフルに攻めました。皆さん、ブースで買ってきた食べ物や飲み物と一緒にくつろぎながら、あるいはひとりでじっと目を閉じて聞き入ってくれている若い女性、リズムに合わせてはしゃぎ回る子どもたちなどなど。思い思いに楽しんでくれている様子が嬉しかったです。

終わってから歩いていると、おじいちゃんたちから「よかった」「すごいねぇ!」とあちこちで声をかけてもらいました。

三芳町は鉄道のない街。ちょっと不便なのかなと思っていましたが、だからこそのんびりと優しい雰囲気が今も街に溢れているのかもしれません。車があれば所沢インターは近いですし、リタイヤしたらこんなところに住むのもいいかもと思いつつ、三芳町を後にしたのでした。またきっとご縁があるでしょう!

写真:上田海斗