せんくら最終日2つ目の公演は、青柳晋さんとのラフマニノフ尽くし。昨年、千葉で初共演の機会をいただき、青柳さんのスケール大きな音楽に惚れてしまいました。再演の機会を熱望していたところに、せんくらでの共演が舞い込み、それはもう飛び上がって喜んだものです。
メインはパガニーニの主題による狂詩曲。このスリリングで変化に富んだコンチェルトをふたりだけで弾くのは、まさにエレクトーン奏者冥利に尽きるわけですが、お相手が青柳晋さんとなればこれはもうタイガーウッズとコースを回るようなもので、すべてを注いで準備に励むべき最重要ステージと位置付けなくてはいけません。
もうこれだけのために半年くらいこもりたいのですが、過酷なスケジュールで名高いせんくらでそんな贅沢は許されるはずもなく、ものすごく高密度な公演を短時間にいくつもやるという意味では、満を持すなど到底不可能です。言い換えれば、せんくらはこの荒業に耐えられる凄腕だけが生き延びられる特異な環境であり、そうした異次元の能力を持ったアーティスト集結しているものすごい世界だということです。
でも、私にはそんな力があるはずもなく、どんなに頑張っても追いつけないことを毎年思い知らされていますが、今年は特に打ちのめされました。
心身ともにボロボロな最悪のコンディションの中で、人生の大きな挑戦をすれば、悲劇になるに決まっています。でも、逃げるわけにはいかないと気を張っている時に限って運のなさが重なるもの。痛恨のミスで青柳さんの時間と体力を無駄にする過ちをおかした時、張り詰めていたものがプツリと切れる音が聞こえました。
でも、今振り返ると、それでよかったのかもしれないという見方もできます。私が想定していた演奏には遠く及ばず、せいぜい50点でしたが、張り詰めたままに弾いていたら、もっと気の滅入る結果になっていたかもしれません。
ともあれ、これで終わりにだけはしたくありません。また再演の機会を熱望し、思い描いた通りの演奏を必ず実現したいです。青柳さんはもう懲り懲りかもしれませんが、頼み込んででも、泣きついてでもやってもらいます。また新しい目標を心に誓って終わった今年のせんくら。素晴らしい思い出をありがとうございました。
⇩写真:上田海斗(フォトグラファー)