大ホールの響き

四日市から津へ。春のやわらかい雨に濡れる街並みを抜けて着いたのは、三重県総合文化センター。広大な城址に建つ複合施設は、文化会館、生涯学習、男女共同参画の棟に分かれ、それぞれに多数のホールや会議室が設置されています。大学のキャンバスのように、毎日通っていれば慣れるでしょうけれど、たまに訪れると自分の行きたい場所がどこにあるのかを把握するのも容易でないスケールです。

演奏会を翌日に控え、この日はステージ準備とリハーサルのために大ホールを開けていただきました。通常は管弦楽団やオペラ、バレエなど大規模な公演に使われる大ホールに、エレクトーンがポツリ。いつも以上に小さく見えるばかりか、弱々しくさえ感じられますが、演奏が始まれば一気にイメージが変わるでしょう。そんなギャップ萌えもまたエレクトーンの魅力です。

広い舞台から3階まである客席方向を見るのは壮観です。この空間が手中にあって、中央にひとり立って礼をできるという状況は、やっぱり特別。気持ちが引き締まります。

リハーサルは主に響きの調整でした。非常にリッチで深い響きを持つホールなので、いつも通りの設定では、音が埋もれてボヤけるとの助言により、エレクトーン本体で設定している残響を半分程度までカットしました。

エレクトーンの残響機能には、カラオケでエコーを掛けるのと同様の効果もありますが、もうひとつ、各楽器音の定位感を持たせるという効果があり、コントラバスは右手前から、ティンパニは左奥からといった具合に、その楽器がどの辺りから聞こえてくるかを設定することができます。

残響を減らすと、ぼやけていた音の粒がくっきりする一方で、定位感が減少し、すべての音が団子のように丸まってしまうという副作用があり、どちらを取るかの選択に迫られました。響きが過剰でも、立体感を残す方が大ホールで演奏する意味が出るのではないかとも思いましたが、お客様が集まった状態でどのように聞こえるかは、その時にならなければ私にはわからないので、助言に従いました。

そしてこの日はラジオへの出演も。FM三重の「ゲツモク!」は、代田和也さんによる大人気番組です。メディア露出に慣れていない私を上手にエスコートしてくれ、自然に対話している感じでした。さすがメディアの力は大きいなと実感したのは、放送直後にYouTubeの再生回数が一気に伸びたこと。翌日の演奏会にも効果があるといいのですが。

夜は、家族や手伝ってくれている人と一緒に東洋軒で夕食を。食べられるものの少ない母にも楽しめるメニューがあり、皆さんもそれに付き合ってくれました。カニクリームコロッケやエビフライなどのちょっと昔懐かしい洋食を、クラシカルな洋館の個室で味わっていると、デパートのお子さまランチにワクワクした頃のことを思い出します。

リハーサルの間、両親の相手をしてくれたのは名古屋からお越しの響尾先生。どこか近所で過ごしていたのかと思っていたのですが、聞けば神宮まで車を走らせてくださったのだとか。赤福を山のように買い求めてご満悦で帰ってきました。

この日もまた、多くの方々に支えられ、とても充実した一日に。旅は気持ちを高め、大胆にしてくれます。その効果は体の不調も軽減してくれているのか、あるいはただ鈍くなっているのか、皆さんといると元気でいられますが、客室でひとりになると、活発に振る舞ったツケが一気に押し寄せてきます。

さて、この調子でリサイタルは実現できるのか。広島の楽屋で米津さんに「今日はだいぶ元気かも」と余裕ぶってみたものの、終演と同時に崩れたことを思い出してため息。まずは三重に集中して、その手ごたえで考える。そのためにも早く休もうと思いながら、結局眠れぬまま朝が来たのでした。