復興音楽祭グランドフィナーレ

リサイタルのご報告を先に申しあげましたが、その前週には末永く心に留めておきたい思い出の公演がありましたので、順に振り返ってみたいと思います。

4月21日には広島県の坂で、第5回復興音楽祭が開催されました。2018年西日本豪雨災害で大きな傷を負った地域と人々のために、地元音楽家がボランティア活動として始めた音楽祭は、アマチュアとプロが一緒になって楽しさを伝える名物イベントに成長しました。

中核となって推めてきたのは音楽講師で奏者の城谷智子さん。催しが注目を浴びて、スケールが拡大するに従い、苦労も増えたに違いありませんが、それ以上にやりがいが大きかったとおっしゃいます。

今回は、広島県警察音楽隊にも大きな協力をいただいたり、特別ゲストにはピアニストの米津真浩さんをお迎えするなど、フィナーレに相応しい充実したステージとなりました。

オープニングは警察音楽隊の華やかなファンファーレ。続いてよく知られた陽気な音楽が演奏され、客席は一気に盛り上がります。そして被災した地域に暮らす音楽愛好家「小屋浦ミュージックファミリー」による演奏。ピアノ連弾、独奏、マリンバとピアノのアンサンブルが披露され、ピュアな心が会場を包みました。

賑やかなリズムに乗せて子どもたちが歌い踊るコーナーには、坂の名物キャラクター「ウメジロウ」も登場。サポートに入った歌手の松岡拓さん、エレクトーンの菊池玲那、警察音楽隊の皆さんと子どもたちが触れ合う姿が印象的でした。

小屋浦の日常を象徴するような子どもたちの歓声を割くようにして流れた災害のドキュメントビデオ。あえて無音で投映され、厳しい現実がより鮮明に迫ります。この日を決して忘れない。この日を知らない人も、坂の皆さんの思いに強く共感したことでしょう。

ビデオが消えると、うっすらとした明かりの中から、温もりのあるピアノの調べが聞こえて来ました。米津真浩さんが奏でるショパンのノクターン。息を呑むとはまさにこのこと。響の奥深いところまで聞き逃すまいと身を乗り出すお客様がたくさんいらっしゃいました。

ノクターンが静かに消えいると、米津さんの軽快なトークが場内のムードを明るく導きました。次いでショパン、ブラームスを弾き、ソロのフィナーレは超絶技が炸裂する「星条旗よ永遠なれ」で会場を沸かせます。

そこでラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を。時間が限られるため、第1楽章と第3楽章後半を編集したダイジェスト版ですが、1×1の絶妙なアンサンブルをご披露できました。

最後のコーナーは広島ミュージシャン。木岡祥子さんとヘンデルのハープ協奏曲の終楽章を、岩本未来さんとプッチーニの蝶々夫人から「ある晴れた日に」を、松岡拓さんとミュージカル「ファインディング・ネバーランド」からネバーランドをお届けしました。それぞれに個性あるスタイルながら、今回のテーマとなっている「夢」を表現してくれました。

グランドフィナーレは、みんな揃って高橋晴美さんの「ひとつ」を。合唱団「コール・マーレ」に有志の歌声が加わり、米津さんのピアノとともにオーケストラによる演奏が実現しました。指揮は城谷智子さん。これまで復興音楽祭を導いて来たことを象徴するように、優しくまとめて上げてくれました。

復興音楽祭は幕を下ろしましたが、音楽の歓びがこれだけ広まった今、もうそれなしにはいられないのではないかと思います。また新しいかたちで音楽の花が咲き続けるような気がします。