人に吉あり、人に良し。人吉労音の60周年を記念した例会シリーズのひとつに選んでいただき、ソプラノの平野雅世さん、テノールの村上敏明さんと共に、華やかで心温まる演奏会をお届けしました。
エレクトーン独奏による「美しく青きドナウ」で幕を上げたステージ。ここでは、人吉の真ん中を流れる球磨川をドナウに重ね、時に牙を剥くことはあれど、川と共に生きる人々の支えである優雅な姿をイメージ。続く「フィンランディア」は、希望を失わず、厳しい試練を乗り越えて来た人吉の人々への賛歌です。
すでに会場は音楽で満たされ、観客と奏者が一体となっている感覚に包まれました。やはり60年の歴史を持つ鑑賞団体ですから、聞く力がものすごいのです。
ここでゲストの歌手が登場。まずは平野さんが「早春賦」を、そして村上さんが「七つの子」を。誰もが知っている日本の歌が、まるで初めて聞く音楽のように特別な味わいをはらみ、聞き手の心にしみじみと響きます。
歌声により一層の奥行きと彩りを得たステージの盛り上がりはとどまることを知らず、第1部の終曲には、すでに終演時のような熱狂となりました。
時計を見ると開演から60分。時間管理に自信のある私にしては珍しく、予定より10分オーバー。まさに時を忘れるほどの心地よさです。
休憩後はプッチーニ尽くしのオペラステージ。「トスカ」「マノン・レスコー」「ジャンニ・スキッキ」「トゥーランドット」「蝶々夫人」。これら人気作品からアリアやデュエットをたっぷりと。迫真の演唱が目の前で繰り広げられ、お客様が息を呑む空気や歌手の鼓動までをも感じます。
アンコールではサービス精神に富む歌手たちが更に会場を沸かせ、大喝采の中で幕を閉じた記念例会。2時間10分、18曲のボリュームをなんとか乗り切ることができた爽快感と、稀代のベテラン歌手ふたりが演奏を信頼して身を委ねてくれたという歓びに満たされた一夜でした。
この日のために長期間の準備をしてくれた人吉労音の皆さん、姫路から遠路はるばるエレクトーンを運んでくれた姫路労音の太田垣さん、そして客席から惜しみない拍手で演者に力を与えてくれた会員の皆さん。生涯の思い出をありがとうございました。