フランス🇫🇷歌合戦

昨年に続き、三越フランス展とリンクしたフランス🇫🇷旅紀行コンサートが、三越劇場で開催されました。

キャストと構成は大好評だった昨年のままに、一部曲目を入れ替え、より一層の充実が図られたこの公演、実に粋で華麗で私も大のお気に入りです。

芸大の同級生で親友同士という今井俊輔さんと中井智彦さん。同じ歌手でも、オペラとミュージカルと異なる分野で活躍しており、その声も魅力も大きく異なります。違いがあるだけに、それぞれのステージが際立ちますし、どこか歌合戦のような趣きさえあって、互いに全力で競り合う雰囲気が、会場の熱量をぐんぐん上げていきます。

それでいて、トークシーンでは同級生同士の気の置けないところが見られ、緊張感とくつろぎ感のローラーコースターでした。

それぞれの独唱は、双方圧倒的です。魂の叫びがこだまする熱いミュージカルナンバーを歌う中井さん。超有名でごまかしが許されないオペラアリアを披露する今井さん。ふたりとも間を空けずに異なる3曲を続けて歌いましたが、その集中力とパワーは本当に超人的です。

そして、ゲストの佐渡寧子さんが加わっての「オペラ座の怪人」は、昨年より洗練度もドラマ性も増して、見応え聞き応えたっぷりのステージとなりました。

その中でエレクトーンの果たした役割も非常に大きかったと思います。今回は一言も喋りはしませんでしたが、開演から終演まで、18曲を絶えず演奏し続けるには、相当の集中力が必要です。

作品それぞれの世界観を描きながら、歌手に追随するのではなく、先導する音楽を奏でなければ、あのような空気感には至らなかったに違いありません。

歌手たちがベテランで、あらゆるシグナルを敏感にキャッチしてくれるからこそ、こちらも大胆に仕掛けていけるというわけです。

実は、今回の公演に際しては事前のリハーサルを行いませんでした。当初は一日リハーサルを予定していたのですが、私の体調不良によりキャンセルになったのです。改めてセッティングしようにも、タイトなスケジュールで活動する歌手ばかりですから、できませんでした。

その上、公演2日前に全曲のレジストレーションデータが消滅するエラーが生じて途方に暮れました。ファッションショー目前にクローゼットが燃えたようなもの。焦ってもどうにもならないので、思い出しながらもう一度、気長に作り直すしかありませんでした。

リハーサルキャンセルとデータ消失により、完成した音で弾いたのは、直前のランスルーの1回のみ。もしそこで問題が生じても、どうにもなりません。

でも、私に不安はありませんでした。歌手の実力も方向性もじゅうぶん把握していますし、こちらも柔軟に対応できるだけの準備はできています。

リズムが加わる曲目も、プログラマブルリズム機能を一切使用せず、すべてキーボードパーカッションで発音するようにしてありますので、テンポが変化しても、万が一小節が飛んでも、何ら問題ありません。

実際、こうした公演では、音楽的に合う合わないはほとんど問題ではなく、ステージでの演技的な振る舞いや、弾き始めのタイミングなどの段取りをしっかり把握し、ショーとしてのタイムラインが滞りなく流れていけば、自ずと音楽もスムーズに演奏できるもの。

本番ならではの臨場感は、こうした崖っぷちでの絶妙なバランスがもたらしてくれるのかもしれません。