5月12日、東京文化会館でのリサイタルは、願っていた通り、忘れ難くかけがえのないひとときとなりました。心の支えとなってくださった方々に感謝いたします。
東京文化会館で過ごした一日は、自分の演奏の質という一点を除けば、すべてが理想的でした。ストレスを感じるできごとを完全に回避することはできませんが、それすらがものごとを好転させるきっかけとなり、パズルのピースがピタッとはまっていくような爽快さでした。
演奏に関しては、体力の限界を痛感しています。以前はどれだけ弾き続けても疲れ知らずでしたが、もはやそうもいきませんので、集中力を含めた自己制御が欠かせません。その意味で、リハーサルは一度弾くだけと決めていたのに、調子に乗って2度フルコースを弾いてしまい、本番終盤でバテました。
そんな痛々しい奏者を目前にしながらも、ブーイングどころかエールを込めた熱い拍手をお送りくださったお客様の心意気に胸を打たれた次第です。
「お客様は神様です」という名言の解釈については種々の意見があるでしょうが、私にとってこの言葉は否定のしようがない事実です。自分の力がこれ以上及ばないとわかった時、人は神に祈ります。演奏会において自分ではこれ以上無理と感じた瞬間、ふと客席に意識を向けると、凄まじいエネルギーを与えられることがしばしばあり、「客席に神がいる」と確信します。
私がこの日に授かったすべてはお客様から与えられたものです。貴重な時間を割き、はるばる旅をして集まってくださるお客様と、同じ空間を共有する歓びこそが私の財産。今日まで弾き続けて来てよかった。そんな思いで終演後を過ごしています。