フランスの風〜波多江史朗リサイタル(3/9)

波多江史朗サクソフォンリサイタルは、ぬくもりのある万雷の拍手の中で幕を閉じました。長年のよき友であり、エレクトーンのよき理解者でもある稀代の名プレイヤーが、大作3作に絞り込んで魅せるステージは、見事に波多江テイストに染まり、誰もがエスプリ香るひとときに酔いしれました。

島田彩乃さんのピアノと共に、陽が落ちて瞬き始める星々のように静かに響き始めるフランクのソナタ。滑らかに伸縮を重ね、夢のような高揚へと導く音楽づくりに、舞台裏で聞いていてもため息が漏れます。

休憩を挟んで、本堂誠さんのバリトンサクソフォンを加えて、ダマーズのトリオ。波多江さんはアルトからソプラノに持ち替えての演奏で、ここまでで3種類のサクソフォンを聞けたことに。本堂さんのバリトンは、まるでチェロに聞こえるところがあるなど、技術といいセンスといい衝撃的。島田さんの抑制を効かせながらも流れを先導するピアノにも多くを気付かされます。

まるでパリにいるかのようだ。やはり本物の勉強をしたエリートは違う。夢見心地で聞きながら、この後、私はここに出ていかなければならないと我に帰り、変な例えですが、パーフェクトに手入れされた犬のチャンピオン大会に、薄汚い野良犬が参戦する図が思い浮かびました。

自分が恥をかくのはもう慣れっ子です。でも、主演の顔に泥を塗るとか、お客様をガッカリさせるのは、何としてでも避けなければなりません。ああ、出にくい。舞台袖でダマーズの余韻と拍手を感じ、爽やかに戻って来た3人の空気に触れ、消えていなくなりたい気持ちが頂点に達しました。

気後れする理由は他にも。この日、会場に入ってからリハーサル開始まで待つこと3時間。やっとエレクトーンの電源が入ったところで、1分後には全員でのアンサンブルが始まりましたが、スピーカーのトラブルで散々だったこと。必要な準備の時間が与えられず、暫定的な流れのままリハーサルが終わってしまったので、慣れている会場とはいえ、何ともスッキリしなかったのです。

温まった会場に分け入るにあたり、心掛けたのはただひとつ、主演との対話に徹することです。18年の経験にはにわかには得難いものが宿っていると信じ、そして今回主演が掲げた「ダイアログ」というテーマを体現することにしました。

作品の解釈については、事前のリハーサルで折り合いがついており、エレクトーンパートとしては、作者のレシピにある以上の風味付けはしないと決めていました。どの演奏会でもそうであるように、思い通りではなかったところもありますが、野良犬の不器用な舞にしては、いい味が出ていたのではないでしょうか。

アンコールは一転してくつろいだ雰囲気に。島田さん、本堂さんとは出会ってわずか5時間ながら、密度あるアンサンブルをしていただき、感謝しています。またいつかきっと。