文化のスピリッツ(2/3)

三重県文化会館の名物シリーズ企画のひとつ「加羽沢美濃のクラシック音楽講座」にお招きいただき、たいへん充実した二日間を過ごしました。平日の日中にもかかわらず、会場には熱心なお客様が詰めかけ、会館が用意したレジュメとペンを片手にずらり勢揃い。市民大学の講義を思わせる「学び」、演奏に耳と心を寄せる「鑑賞」、そして時折脱線するトークが誘う「笑い」と、脳に必要なものが三拍子揃った栄養たっぷりのイベントを自ら体験し、大人気の理由がわかっておおいに納得。そこに関われたことを誇りに思います。

今回は作曲家シリーズの第7弾として、ドヴォルザークをテーマに、生涯や作品、作風などをエピソードを交えてご紹介。代表作をハイライトで演奏したり、1曲のある部分を徹底的に掘り下げたりと、作曲家の美濃さんならではの切り口で、エッセンスに迫っていきます。講座が終わる頃にはドヴォルザークが身近に感じられ、より多くの作品に触れてみたくなったに違いありません。

ご紹介したドヴォルザーク作品は、スラヴ舞曲集第1集第1番、ユーモレスク(ピアノソロ)、我が母が教え給いし歌、交響曲第9番「新世界より」。うち、「我が母が教え給いし歌」と「新世界より」の第2楽章は、美濃さんのピアノとのデュオでお届けし、新鮮な雰囲気をお楽しみいただきました。

加えて、加羽沢美濃さんの作品より「ジャスミンの子守歌」をデュオで演奏。ピアノとオーケストラのために書かれたこの作品は、一貫してシンプルでありながらも、細部にまで作者の思い入れが向けられており、その意図をひとつひとつ紐解く時間もまた幸せでした。

こうした内容が、どの瞬間にも無駄のない、生放送番組さながらのスマートさで進行したわけですが、それを見事にコントロールする美濃さんのMC(マスターオブセレモニー)手腕に改めて感服。本当にすごいことです。トークに絶妙の間を設け、私が口を挟むタイミングをさりげなく指示してくれますし、話題の締めくくり方、つまりまとめ方が絶妙なところも見習いたいと思いました。

また、エレクトーン奏者として嬉しいのは、美濃さんがエレクトーンに向かい、実際に操作をしたり弾いたりするという、お客様がエレクトーンの概略を知るためのコーナーを設けてくれたおかげで、その後の演奏に対する理解が一気に深まったところ。どうやって音を選んだりニュアンスを生み出しているかがわかれば、演奏の動作すべてに意味があることが見えてきますので、弾き手から受け取れるものが倍増したことでしょう。

さらに、会館のスペシャルサービスで、終演後、ご興味のある方にエレクトーンを間近でご覧いただける機会まで設けてくれました。思っていたよりずっと多くの方が残り、エレクトーンを囲んでさまざまな質問を寄せてくださっている様子を舞台裏で感じながら、なんとありがたいことかとしみじみ思っていました。

このように文化の発信がお客様目線で実現しているケースには、まだなかなかお目に掛かれないのが実情ですが、三重県文化会館では当たり前のように実施され、そのスピリッツをたっぷり含んだ催しが次から次へと継続しています。館長からすべてのスタッフまで、皆さん惚れ惚れするお仕事ぶりでした。

今日は多くの方々から熱い視線を注がれ、エレクトーンもさぞや自尊心を満たされたはず。こんな風に愛してもらえると、エレクトーンも幸せだろうと思います。