茨木公演の翌日は、兵庫県の宍粟を訪ねました。姫路から車で1時間。市街地を抜けると、ずっと田園風景が続きます。ちょうど盆の日、なんだか「ただいま」という気分にさせられました。
宍粟では今年も10月に第九公演があり、春から練習会が始まっています。この日が私の初参加。例年お馴染みの方々、初めましての方々、たくさん集まってくれました。
今回の本番では指揮者がいないスタイルに初挑戦します。管弦楽部分は私がひとりで弾くので当然指揮は不要ですが、合唱にとってはいささか不安でしょうし、ピタッと合わないという事態もあるかもしれません。
元来、管弦楽団に合唱が加わる形式で書かれた作品ですので、名指揮者が率いる名門管弦楽団とプロの合唱で演奏するのが、音楽鑑賞という意味では理想でしょう。それに対して、アマチュア合唱とエレクトーンですから、その向こうを張ろうったって土台無理なのです。だったら、何か工夫をしてみたいと思い、奏者と歌い手がダイレクトにコンタクトするアンサンブルとしてやってみることにしました。
となると合唱団に主導権の幾らかを持ってもらうことになりますし、常に自発的かつ能動的に振る舞ってもらう必要があります。合唱団員ひとりひとりが歌う意味や欲求を主張し、それを私が汲み取りながら管弦楽部を演奏することで、きっと面白い第九になるに違いないと目論みましたが、合唱団員は見事なもので、それを「ワクワクする」と言って受け入れてくれました。
練習会では、管弦楽部の構成や分析について説明し、声部とどのような関係にあるかを理解してもらいました。指揮のない状態で、どのようにして音楽の波に乗るのかというコツも伝えました。皆さん、とてもいい感覚です。あとは慣れですし、交響曲としての音楽を体に取り込めば、歌うのが少しは楽にもなるでしょう。10月の本番まで、あと4回ほど宍粟に通い、息を合わせていきます。
宍粟第九の楽しみは、まるでマルシェのような雰囲気。農地を持っている団員が多いので、ブルーベリーやカボチャなど、毎回いろいろな収穫物が振る舞われたり即売されたりと、まさしくマルシェです。第九練習に行って新鮮野菜を買ってくるなんて、ちょっとステキですよね。
練習会場からの景色もお見事。こんな土地に育まれた第九、いかがでしょうか。アクセス至便ならぬ、至極不便ですが、だからこそ見える風景、だからこそ聞こえる音もあると思います。