2021年は公演回数こそ少なかったものの、忘れがたい演奏会がたくさんありました。また、出会いと別れ、人生のピークとドン底を経験し、さまざまな事柄に対して感覚が刷新された一年でもあります。この忘れがたい一年を締めくくるのは、オペラ「蝶々夫人」。小さな会場でのハイライト公演に、今の自分を注ぎきった演奏をしようと、鋭意準備を進めています。
オペラアリアやミュージカルなど、歌手との共演機会には恵まれているものの、オペラのタイトルを冠した公演への参加は、横浜オペラ「ドン・カルロ」以来、二年半ぶりです。オペラに関しては、それを専門または得意とする優秀なエレクトーン奏者がいますので、本来なら私の出る幕ではないのですが、ご指名をいただき謹んでお受けいたしました。
今回の参加の決め手は何といっても歌手陣が魅力的だったから。オペラは手間が掛かる上に時間の拘束が長く、好き勝手ができないので、支配欲の強い私にはまったく向いておらず、よほど歌手がよくないとやりません。つまり、今回の歌手はそれほどの顔ぶれなのです。
公演は12月29日ですので、まだ1ヶ月ほど先のことながら、すでに本格的な稽古がスタートしていまして、今週は大阪に詰めております。関西での演奏機会は、むしろ首都圏よりも多いくらいですが、振り返ってみますと大阪でオペラを演奏するのはこれが初めてです。
大阪の稽古場は江戸前の私から見ると、カルチャーショックそのもの。和やかといいましょうか、賑やかといいましょうか、お正月のような晴れやかな会話が終始花開き、脱線しても転覆せずの絶妙なバランス感で進んでいます。そして歌う時はビシッと決めてくるところがさすが。公演が楽しみです。
しかし、当日までには、まだすべき準備が山積していますので、気を抜くわけにはまいりません。演奏を磨くことはもちろんですが、総譜を隅々まで読み、物語や人物像を時代背景とともに深く理解するには、まだまだ時間が必要です。
その一環として、稽古の空き時間に蝶々さんと問答をしました。題して「インタビュー・ウィズ・蝶々夫人」。「あなたはいつ自分の運命を悟りましたか?」「ピンカートンへの思いというのは愛情ですか?それとも献身ですか?」「あなたにとって幸せとは何ですか?」
それらの問いに蝶々夫人として答えることで、人物像を明確にしようという試みです。まだ謎だらけですが、本番までにはこのプロダクトでのキャラクターが固まるでしょう。イノセント、ミステリアス、エキゾチック。芳醇な音楽にそうしたエッセンスをふんだんに織り込んでお届けいたします。ご期待ください。
■公演詳細につきましては、↓チラシ画像をご覧ください。