体育館は幻のオアシス

一年ぶりの、そして今年唯一の学校訪問コンサートに出掛けてきました。思いっきり弾くというのは、そうそう、こんな感じでこんな気分だった!と、忘れかけていた感覚を呼び覚まし、演奏に命を吹き込んでくれたのは、子どもたちでした。

当初は小学校の1年生から6年生まで、在校生が全員一度に集まって聞く計画でした。広い体育館の収容力はじゅうぶんですが、できるだけ多くの子に特等席で聞いてもらえるようにと、低学年と高学年の2グループに分かれ、2回の演奏を行うことになりました。

そうすれば密集を避けることができる上に、エレクトーンをステージではなくフロアに設置して、楽器を取り囲むように聞いてもらうことができます。2度のステージになれば、演奏の負担は大きくなりますが、それは少しも苦になりません。

小学生とひとくくりに言っても、1年生と6年生ではまったく違います。それぞれの年代に音楽を印象的に届けるには、進行の仕方、話し方、選曲などを最適化するのが効果的です。その点、今回は演奏曲目を工夫し、重複する曲目であっても、聞き手の雰囲気に合わせて表現を変えたことで、終始興味と集中力が持続されました。

いわゆる子ども向けの曲や、流行曲というものは弾きません。私がそれを得意としないというのが唯一の理由です。自分が自信を持って弾けるもの、聞いていてまさしくプロの演奏だと伝わるものだけを演奏します。おのずと初めて聞くクラシック作品が並ぶことになりますが、曲のイメージと聞きどころを簡潔に話せば、みんなそのように聞いてくれます。

以前はエレクトーンに触れてもらったり、子どもたちと触れ合う場面を設けていましたが、それが出来ませんので、今は演奏がメインです。以前よりシンプルになった分、トークでは子どもたちと対話する雰囲気を大切にしており、その結果、私が子どもたちから受け取るものが増えました。

10月の私はまさにカランダール王子(10/31リサイタルで演奏する交響組曲「シェヘラザード」に登場する苦行僧)ですが、訪ねた小学校はまるで夢にまで見た幻のオアシスのようでした。さあ、今週はあと3公演。気を引き締めて進みます。