せんくら2021は、大成功のうちに3日間の会期を終えました。おそらく私を含む多くの演奏家とお客様にとって、パンデミック以降、初の大型音楽フェスティバルだったと思いますが、各公演ではスタッフとボランティアの方々がガイドライン通りに準備を整え、お客様が完璧に協力してくださったおかげで、私たち演奏家は何の不足もなく演奏に集中することができました。
これだけきちんと環境を整えていただきながら、私ときたら思うように調子がでず、改めてフェスティバルの恐さを痛感しています。東京を出発する時点では、これなら満足のいく演奏になると自負するだけの準備はしてあったのに、なぜ用意したものが発揮し切れないのか。そこを探ると、自分のメンタルが揺らいでいる兆候が浮き彫りになってきました。
これほど名手揃いの催しになると、末席とはいえ名を連ねられることに誇りを感じると共に、サラブレッドの群れに迷い込んだ駄馬のような立場に萎縮します。そんなことを悩む必要などないと頭ではわかっていても、何か本能的に血統の違いを感じ取ってしまうのです。
それは、エレクトーンで演奏活動を始めたころに宿ってしまった、コンプレックスのトラウマなのかもしれません。当時、未熟だったこともあり、散々バカにされ、拒絶され続けた傷が今もどこかに残っています。それから経験と努力を重ねて、少しずつ道を切り拓き、こうしてフェスティバルにも声を掛けてもらえるようになったのですから、素直に自分を認めて堂々としていたらいいのに、いつも肝心な時に硬直してしまいます。
そうなると、もはや自分ではなくなります。心と体が遮断されてコントロールが破綻し、何をやっても裏目に出る状態というのは、二度と経験したくないと思っていても、現実にはしばしば襲ってくるものです。これが何かをきっかけに解放されるものなのか、一生付きまとうのかわかりませんが、できることなら克服したいと願っています。
仙台の皆さまは、こんなふうにバランスを欠いた私のことを、温かく大きな拍手と笑顔で迎えた上に、優しくおおらかに聞いて楽しんでくださいました。だからこそもっともっと最高の演奏でお応えしたかったです。またお会いするチャンスがあるのなら、ぜひまた聞きに来てください。
さて、次は10月8日、米津真浩ピアノリサイタルですが、この公演の発案者(言い出しっぺ)として、もう少し多くのお客様の前で演奏させてあげたいと切に願っております。今一度、皆さまのスケジュール表をご確認いただきまして、ご都合がよろしいようでしたら、ぜひとも東京文化会館へお出掛けくださいませんでしょうか。一同、心よりお待ちしております。