5/6 神田将リサイタル2021

2020年5月9日の開催を断念し、2021年5月6日に延期開催を予定しております【神田将リサイタル-2021ODYSSEY-】は、万全の対策を施しまして、予定通りに開催させていただきます。

東京周辺ではまだ感染への懸念が拭いきれず、不安な日々をお過ごしの方、毎日最前線で戦っている方が大勢いらっしゃいます。一方で音楽を必要不可欠のものとし、コンサート会場へ足を運んでくださる方も増えてきました。

この状況になって以来、私たち演奏者をはじめ開催関係者は、全員が一丸となり、決して問題を起こさないために考えられる限りのあらゆる対策を講じ、コンサートホールを「最も安心して過ごせる場所」と胸を張れる空間に仕立て、ご来場のすべてのお客様にご納得いただいてまいりました。しかし、その安全性を保証する手立てはなく、ご来場にならない限り中の様子を知ることができないゆえに、今なお入場に不安をお持ちの方々が少なくありません。会場の安全性に自信を持ちながらも、開催に二の足をふんでいたのは、これが大きな理由です。

その他に現実的な問題もあります。開催する以上、ある程度のお客様をお迎えしなければ、演奏会は成立いたしません。ふだんならどんなに遠くても飛んできてくださるお客様、ご友人を誘ってお揃いでお越しくださるお客様も、心を閉ざし外出なさろうとしない今、意気込みだけで幕を開ければ、惨めな結果と莫大な負債が残るのは目に見えています。小さな演奏会なら赤字になっても知れていますが、この規模になれば限りなく減っている年収を超えるマイナスも予想されます。

それでもやることに決めました。理由はいくつかあって、一番はこれがまたとないチャンスだからですが、決め手はこれをやってみたいと思うビジョンが見つかったからです。企画当初は大ホールを埋め尽くすお客様の熱気とともに、バレエやオペラ公演のようなダイナミックな空気のうねりを作りたいと考えていました。しかし、時が進むにつれ、現状も考慮に入れると、次第にイメージが変わってきました。

あの優美ながらも威圧感さえある大空間に、限られた人数のお客様を迎え、ゆったりと、どこまでもゆったりと、まるで閉館後のルーブルを独り占めするかのように、あるいは遺跡の神殿から夕日を眺めるように、世界の広さと私たち人類に与えられたものの価値を思いながら音楽を嗜む機会を創造したい。そのような贅沢なひとときは、今でなければ造れないと考えたのです。

ここ数ヶ月、どんなに足掻いてもモチベーションが上がらない時期があり、次々と押し寄せる無情な出来事と重なり、苦しい経験をしました。モチベーションを欠いた芸術家など、電源を失ったスマホのようなもので、中身がどうあれ何の役にも立ちません。いっそこのまま音楽の道から脱落してしまおうとも考えました。

でも、こんな私の演奏を待ち焦がれてくださっている方々がいて、その中には聞きたくても出掛けられない方もいらっしゃいます。そうした方々のためにも、もうしばらく音楽家でいたいという切望があるのに、もしここでリサイタルを諦めれば、私は永遠にモチベーションを失うかもしれないとの恐怖があるのも事実で、何度も何度も冷静に考え直した結果、今を逃すべきでないとの結論に至りました。

リサイタルのテーマはODYSSEY。この言葉を掲げるのは初めてですが、デビューした時から一貫して心にあるイメージです。果てしない旅路は誰の人生にも存在します。そのかけがえのない旅路が交わる時、人は思い出を紡ぎ、それをまた物語として人に伝えたくなるものです。私は演奏に際し、自己表現を控え、作品の持ち味を最前面に押し出すよう心がけています。演奏会において、皆さまが旅人なら、私は案内人。世界の絶景をご紹介するのに、何の装飾もいりません。

今回、第1部ではヴァイオリンの名手・松田理奈さんを迎え、リムスキー=コルサコフ作曲の交響組曲「シェヘラザード」を演奏します。この美しくも激しい作品は、命の輝きを浮き彫りにしてくれるでしょう。エレクトーンひとりでは表現しきれない部分への、松田さんによる完璧なサポートにもご注目ください。

第2部では世界的ソプラノ歌手のサイ・イエングアンさんとともに、長年の共演で育んだ阿吽の呼吸によるアンサンブルをお届けします。珠玉のオペラアリアをメインに、天世の美声をたっぷりとお楽しみいただけるプログラムを考えましたので、きっとご満足いただけることでしょう。

ご案内は緊急事態宣言が解除され次第としておりましたため、開催まで2ヶ月を切り、もう時間がありません。このようなタイミングでお知らせいたしますことをどうかお赦しください。これから当日まで、皆さまからのお申し込みを楽しみに待ちながら、1日ごとを大切に、日々演奏を磨いてまいります。こんな私にお付き合いくださる寛容な方がどれほどいらっしゃるのかまったく自信がありませんが、ぜひこの機会に東京文化会館大ホールへお越しくださいますよう、心よりお願い申しあげます。

なお、昨年のチケットをホールドしてくださっているお客様には、本年のチケットを改めてご郵送いたします。座席をひとつ置きに空けることになりましたので、お席の番号が変更になりますことをご了承ください。