サクソフォンとエレクトーン

東京労音主催による波多江史朗サクソフォンリサイタルが、11月6日に東京文化会館で開催されました。10月の玉村三幸フルートリサイタルに次ぐ東京労音管楽器リサイタルシリーズの第二弾として、管楽器の魅力を存分に発揮する公演を実現でき、たいへん嬉しく思います。

現在開催または企画されている多くの公演がそうであるように、波多江リサイタルも演奏会にとってたいへん厳しい状況の中で進められましたが、お客様にチケットをお買い上げいただいたことと、主催者の極めて寛大な対応によってなんとか開催できました。まずは制作者として当日お集まりくださったすべての皆さまに心より感謝いたします。

主演が変わればお客様も異なるものですが、今回は私にとってあまり経験のない雰囲気がありました。まず、皆さまお若い。開演前のざわめきと言いますか、客席やホワイエの熱気は舞台脇の控室にも伝わってきますが、まるで原宿や渋谷の雑踏に面したカフェにいるかのようです。

聞けばサクソフォン奏者を目指す学生さんが大勢駆けつけてくださったとか。エレクトーンの学生さんは私の演奏になど見向きもしてくれませんので、とても新鮮に感じました。その他のお客様もほとんどが管楽器関係の方々と米津ファン。こうしたお客様を前にエレクトーンを演奏する気分というのは、命綱なしに崖から崖へとジャンプするようなものです。しかも共演者を背負って。

8分遅れで開演した第1部は、米津真浩のピアノとともに。自在に表情を変えるサクソフォンの音色に、常に寄り添い完璧な調和を響かせるピアノ。大胆な揺さぶりや投げ掛けも繰り広げられ、室内楽の醍醐味が見事に表現されました。

20分の休憩でステージ変換があり、第2部からはエレクトーンが登場。第1音目を放つ直前の客席は、まさに固唾を呑んで見守ってくださっているという感じ。これが管楽器軍団ならではのメリハリと統率感か!と思いながら、ひとときその引き締まった静寂を満喫しました。

私の担当はわずか2作品30分。その中に、私が30年近いエレクトーン演奏家人生で初めて実践したことがいくつも含まれています。こうした試みは共演者の理解と協力なしにはできませんが、波多江はエレクトーンの弱点や利点を客観的に最もよく理解している演奏家のひとりとして、数々のアイデアを出しながら試行錯誤に付き合ってくれました。その多くはまだ探究や熟練が必要ながらも、今後アコースティック楽器との共演でよりよい演奏をするための道筋が得られたのが嬉しくてなりません。

最後は3人でアンコールを。急遽ピアノパートを書き足したので、米津は譜読みの時間もなかったはずですが、このトリオならではの安心感に包まれ、穏やかな余韻を残して演奏を終えました。鳴り止まない拍手。波多江の笑顔。それを見て喜びに浸る米津と私。シビアでリスキーな演目がぎっしりのリサイタルだったのに、写真を見たら笑顔がたくさん。波多江の茶目っ気もしっかり写っていました(名誉のために非公開ですが)。

波多江にしろ、米津にしろ、私にとっては本当に手間のかかる共演者です(切実)。でも、世話の焼き甲斐が有り余るほどにありますので、今後も長男役を喜んで務めてまいります。

管楽器関係の皆さまには、エレクトーンの是非などそれぞれお考えはおありかと存じますが、こんなふうに共演者を支え、リサイタルを仕立てるエレクトーン奏者がいるということを、心の隅にでも留めていただければ幸いです。

次回神田将出演公演は、11月21日の中井智彦(豊洲シビック)です。お客様のチケットご購入のみが財源です。まだお席に余裕がございますので、ぜひご協力くださいますようお願いいたします。