玉村三幸フルートリサイタルを終え一日が経ちました。長年共演を重ねた言わば相棒の晴れ舞台を傍で支えるのは、自分自身のリサイタルでガッツリと構えるのとはまったく違う醍醐味があり、今は心地よい疲労とともに極上の達成感を味わっています。
昨晩の玉村三幸を一言で表すなら、それは知る人ぞ知るプレステージシャンパンのようでした。周囲に流されることなく、信念を持って丁寧に作り込み、満を持して世に送り出された音楽は、黄金の輝きをはらみ絹のように細やかな泡立ちと、スッキリとした喉越し、そしてやわらかく広がる余韻を残し、美しい月夜の記憶に溶け込んで行きました。
ピアノとエレクトーンを巧みに使い分け、ある時はテクニックを披露し、ある時は歌うように吹き、幅広い選曲を施しながらも少しも詰め込んだ印象のないプログラムにも、このリサイタルに向ける並々ならぬ意欲が込められていたと思います。
そんな玉村三幸の音楽に共感しようと、多くのお客様が駆けつけてくださいましたが、私の家族を含め、これが今年初めての音楽会だという声もたくさん聞かれ、よくぞ勇気を持って出かけてくださったと、感謝の念がひときわ膨らみます。
そうしたお客様のご期待が東京文化会館のホール内に漲り、私たちは張り裂けそうな緊張感に押されながら出て行ったものの、いつしか水面を切って真っ直ぐに進む船の先端に立つような気分に変わりました。いつまでも鳴り止まない喝采が今も耳に残っています。
思うに、玉村三幸にとってはこれがひとつの転機になるでしょう。ここが新たな第二章への幕開けです。次はどんな音色を聞かせてくれるでしょうか。なんとも楽しみです。