8月18日は演奏会のため、新潟県柏崎を訪ねました。東京駅から乗客がまばらな新幹線に乗り、長岡で2両編成のワンマン運転電車に乗り換えて揺られること小一時間。ピリピリムードの都心から離れるに連れ、ゆるりとした雰囲気に変わるのが肌で感じられます。
ローカル電車の乗客も一様にマスク姿ではありましたが、見るからに働き者のおばあちゃんたちも、こんがり小麦色に焼けた学生たちも、ビクビクすることなく会話を楽しんでいる様子。車窓に見えるのは風にそよぐ稲。どこに目をやってもウイルスなんてちっとも似合わない環境に見えます。
でも私はお江戸からの越境者。自分は汚れているかもしれないと考え、車内では片隅に身を寄せながら小旅行の風景を満喫しました。
柏崎駅で出迎えてくれた主催者とは、これが初対面。依頼から相談まですべてメールでのやりとりでしたので、言葉を交わすのも初めてです。
演奏会場が駅から遠くないのは知っていましたが、歩くには暑いからとタクシーを回してくれ、乗って30秒ほどで到着。楽屋で荷物を広げ、すぐに舞台準備に入りました。
すでに照明も音響も準備万端。詳細な進行表を送ってあったとは言え、その情報だけでよくぞここまでやってくれたと感服しました。おかげですぐにリハーサルを始められますし、準備の仕事ぶりを見れば、演者は演じることにだけ集中すればいいことがわかります。あとはこちらがパフォーマンスを示せば、適切に対応し完成させてくれるでしょう。
今回は、ミュージカルの世界観をテーマに新しく企画した内容です。歌手はいずれも共演経験のある松本昌子と武藤寛。ふたりとも勘がよく、大雑把にイメージを示せば、あとは自分たちで考えてくれるので私は楽です。そして何よりステージをおおいに楽しんで生き生きと歌ってくれるので気持ちがいいのです。今日は優秀なスタッフと共演者に恵まれ、私はとても楽をさせてもらいました。
そうは言っても、全体に目を行き届かせながら出ずっぱりで弾きまくるのは大仕事です。身体が重く、神経の反応が鈍く感じるのは、ただの老化現象かもしれませんが、自粛生活のストレスも少なからず影響している気もします。それを強引に焚きつけるほど私も若くはありませんので、今日この場所でのバランス感覚を大切にすることにしました。
2度用意された作りたての弁当と「ほんのびまんじゅう」をきれいに平らげ、いざ本番。使用可能な座席を大幅に減らし、扉を常時開放しての開演です。
集まったのは柏崎芸術協会の会員様。創立から60年の歴史を持つ鑑賞団体で、年間を通じて定期的に様々なステージを提供していますが、今年は延期や中止が相次ぎ、この日は9か月ぶりのイベントとなりました。
まだ演奏会に大手を振って出掛けられる雰囲気ではない中、意を決してご来場くださった会員様には頭が下がります。そして演者を奮い立たせ、放ったもの全てを受け止めるという観客の鑑と言いたいような聞き方のおかげで、ステージの居心地は最高。松本昌子や武藤寛も、音楽と一体となって熱唱してくれ、滞りなく進めることができました。
こうしたステージの成果を主催者や共演者と分かち合うために、終演後にテーブルを囲むことは当たり前に行われてきましたが、今はそれができません。片付けで慌ただしい舞台裏で名残惜しく挨拶を交わし、共演者とも後ろ髪引かれる思いで解散。
またこの地で全員が顔を揃える機会があるのかどうかはわかりませんが、今日のコンサートが柏崎芸術協会の誇る歴史の1ページを飾れたこと、困難な中で力を合わせよいステージを創れたという思い出は、いつまでも消えることはないでしょう。