音楽のDNA

神奈川県の海老名市と大和市にて、2日連続で開催されたニューイヤーコンサートは、たいへんご好評いただきながら終演いたしました。

日本、中国、イタリアの歌手が6人集い、良く知られた名曲尽くしのプログラムを熱唱するコンサートは、新年の華やぎや愛に満ちあふれ、お客様と演奏者が一緒になって幸せなひとときを分かち合いました。

コンサートの企画制作は、出演者でもある崔宗宝によるもの。お客様に喜んでいただくことだけを念頭に奮闘する姿がとても印象的で、無理難題を言い渡されても、ついつい引き受けてしまいたくなるから不思議です。

お客様本位でプログラムが決まる公演は、我々のレパートリー以外から選曲されることが多いのですが、今回はその辺にも配慮があり、演奏する全23作品中、新規に準備する必要があったのは、半数以下でした。

それでも、歌手6人に対してオーケストラ担当ひとりというのは、想像以上にたいへんです。編曲やら設定やらで丸々1ヶ月を費やし、持てる限りの時間を使って準備を整えました。

しかし、ひとりでどんなに準備を重ねても、歌手とのアンサンブルがどうなるかは、実際に合わせてみなければわかりません。今回の公演では、新しい曲への不安というより、新しい共演相手の持ち味をどう引き出すかが課題でした。

歌手6人中、5人が初共演。年末のリハーサルで、私は途方に暮れます。私の少ない経験では、彼らの要求にじゅうぶんに応えられないとわかったからです。相手がどうしたいかは感じるのですが、それを自然に表現するためのDNAというか血というものが、私にはないのです。

それからというもの、必死でした。お客様は、これまでの私のままで演奏しても、ご不満ではないかもしれません。でも、歌手たちには見えざる妥協を強いることになり、結果、演奏会の質を下げてしまいます。どのみち足を引っ張るにしても、チャレンジして砕けようと決めました。

1日目の本番は、地に足が着かないまま進んで行きました。事故だけは起こすまいと慎重に演じていても、ちょっとしたことに気を取られ、集中力の圏外に迷い込んだり、聞き逃してはならない声が聞こえなかったり。

2日目は、自分が求めるものに一歩近づいたものの、納得がいくまでにはあと10年必要だと痛感。

明らかなのは、この公演で私に与えられた役割は、私の能力を超えているということです。エレクトーン演奏家には、専門分野を極め、その世界で活躍する名手が、少ないながらも存在します。これは声楽家との共演を専門とする演奏家がやるべきだったのではないかと、打ちのめされました。

それでも、神田将にと声を掛けてくれた主催、互いに讃えながら舞台を共にした共演者、惜しみない拍手をくださったお客様に、心より感謝しつつ、しばらく猛省したいと思います。