夜が明ければ、都心も雪化粧しているのでしょうか。まだ遠くの夜景まで美しく見えていますが、だんだんと冷え込みが厳しくなってきました。2月8日は、私を育ててくれた祖母の祥月命日。明日は墓参も困難だろうと察し、一日早く出掛けて来ました。
墓の傍らには一本の紅梅があります。例年だと、ぽつりぽつりとつぼみがほころび始めたばかりなのですが、今年はずいぶんと花開いていました。目を閉じて頬を寄せると、甘い香りが感じられます。
しばらくぼんやりと佇んで、気が済んだら一路エレクトーンの前へ急がなくては。14日に迫った掛橋佑水さんとのコンサートに備えていますが、自分自身のイメージがなかなか固まらず、今回もまた苦戦しています。
プログラムは、ヴァイオリンの魅力に溢れる作品と、バレンタインならではの甘い夢のような美しい曲揃い。しかも、いずれも誰もが知っている名曲ばかりです。
客席で楽しむ立場なら、本当にワクワクするステキなプログラムですが、エレクトーンにとっては、一歩間違えば作品のよさを台無しにしかねないラインナップなので、いつも以上に注意深く仕上げていかなければなりません。
例えばツィゴイネルワイゼン。これまでも数多くのソリストと共演してきましたが、今回はもう一度スコアリーディングからやり直しました。楽譜も新しくし、以前の音色データは破棄してゼロからの再スタートです。
これまでは互いの息、つまり縦の線を合わせることで満足していたような気がしますが、今目指しているのはちょっと違います。ソリストが魚だとしたら、オーケストラの私は水にならないとダメだと思っています。心地よい水の中で、思い切り泳いでもらいたい。ソリストを最高に輝かせるのが、私の流儀ですから。
表向きはバレンタインのロマンチックなコンサートですが、演奏の中身はどこまでもシビアでストイック。甘い音楽が実はとてもビターな挑戦から出来あがっていることをさりげなく感じていただけると、名門ショコラティエの極上の一粒を頬張った時の、すべてが腑に落ち行く感覚を味わえるかもしれません。