第40回 霧島国際音楽祭が開幕しました。今年も鹿児島に世界的アーティストと未来のビッグアーティストを夢見る受講生たちが集い、熱い日々を過ごしています。会期中は県内各地で様々なコンサートが用意されており、20日には私もそのひとつに出演しました。
今年は40周年の新しい試みとして、アートと音楽のコラボレーションがひとつのテーマに掲げられました。その目玉となるのが、世界的なコンピュータグラフィックスアーティストとして活躍している河口洋一郎先生とその作品たちに、クラシックが出会い共演をするという企画です。
五億年後の生命体や環境を生き抜くインテリジェンスから着想を得たふたつとない作品と共演できたら、どんなに面白いことになるだろうと、どんどんインスピレーションが沸いてきましたが、残念ながら今回、私はコラボレーション不参加。しかし、ヴァイオリンの篠原悠那さん、チェロの上村文乃さんによるバッハの無伴奏と映像のコラボが、素晴らしい可能性を証明する瞬間に居合わせることができ、とても興奮しました。
会場となったのが霧島アートの森。自然豊かな環境に、国内外のアーティストによる作品が屋外を中心にのびのびと展示されており、まさに自然とアートとの共存を体感できる貴重なスポットです。アクセスは容易ではないのですが、はるばる出向く価値はおおいにあります。
河口先生の作品はアートの最先端。ご本人のトークライブや舞台裏でのさりげない会話まで、桁違いの発想と無邪気なほどの感性が溢れていながら、極めて知的であり科学的であるとう、私の好みのストライクど真ん中を独走するアーティスト。
そのコンピュータグラフィックスをひとたび目にすれば、細やかさと鮮やかさに心を奪われっぱなしですが、それを仕上げるまでの気の遠くなるような作業を聞いたり、発想の源流を知れば知るほど、感嘆符がいくつあっても足りない状態に。畏れながらも言わせていただくなら、エレクトーンでの仕込みと演奏のプロセスに通ずるものがあり、深く共感共鳴した次第です。
さて、私のコンサートは有名な彫刻が点在する芝生の広場に設けられたステージで行われました。「雄大な自然と音楽のハーモニー」という、霧島国際音楽祭のメインテーマにぴったりハマる企画です。しかし、台風5号の接近で、朝から怪しい天気。いつ降りだしてもおかしくない空とにらめっこしながら準備を進めました。万が一の雨に備えた客席用のテント、代替の演奏会場など、二重三重の構えで開演を待ちます。
今回は運良く演奏中は降られることなく3回のステージすべて演奏できました。合間に通り雨があった後には、露天に並んだすべての椅子をスタッフが丁寧に拭き上げ。演奏中は見たこともない大小さまざまな虫たちが、鍵盤のあちらこちら、そして私の顔や鼻の穴にまで遊びに来てくれ、嬉しい悲鳴。ところどころ打鍵が憚られ、割愛した音もありました。
この日は風が強かったのですが、ゴーゴーと唸るような森のざわめきと、微動だにしない彫刻の存在感、その間を縫うように広がる音楽との響きあいは、コンサートホールとはまったく異なる不思議な世界観を造り出しました。
私のステージが終わるや否や、土砂降りの雨に。フィナーレの霧島九面太鼓は、屋外ステージからパティオに変更となりましたが、それはそれは血の騒ぐ見事なパフォーマンスでした。神話の時代から伝わる芸能、クラシックの源流とも言えるバッハ、最先端のグラフィックアート、そして日本が誇る新時代の楽器エレクトーン。まさに歴史を駆け抜けるかのようなイベントだったと思います。
そして翌日、降り続く雨で散歩もできませんでしたが、ギリギリまで温泉でぷはーっとのんびりし、ささっと着替えてみやまコンセールへ。この響きの美しいコンサートホールで、アニバーサリーガラコンサートを観賞。客席に座っていても、まだ肌からほんのり温泉の香りがするなんて、霧島ならでは。
オープニングガラでも河口先生のコンピュータグラフィックスが大きなスクリーンに高精細で映し出され観客を圧倒。そこに舞踏家・藤間信乃輔さんの舞と、上村文乃さんのチェロが加わって、黛敏郎作曲「無伴奏チェロのためのBUNRAKU」に乗せ、舞踊とCGと音楽のコラボレーションが実現。凛と美しく乱れと無縁の舞に、カザルス直系の遺伝子を感じるチェロが絡み合い、強烈な引力に呑み込まれるようなステージでした。
更に、弦楽四重奏とのコラボ、工藤重典さんのフルートとのコラボなど、音楽も映像もどちらも譲らぬ存在感で、鮮明な余韻が今も続いています。
続く第二部では超ベテラン演奏家による独奏を満喫。無駄のない洗練の極みに触れ、自分がまだまだ若造だと思い知らされつつ、新たな意欲を呼び覚ましてもらいました。
終演後はホワイエにてパーティー。好天なら芝生でやるのですが、あいにくの雨。ホワイエにずらりと並んだ地元の皆さんによる料理の数々は本当に美味!出演者や受講生はもちろん、知事や市長も一緒になって音楽談義に花が咲きました。
今年の霧島国際音楽祭はまだ始まったばかり。なかなか聞けないコンサートがたくさんありますので、ぜひ興味を寄せていただければ嬉しいです。