3/10 第27回稲城平和コンサート

世界的な二胡の名手として知られる姜建華さんのお誘いで、第27回稲城平和コンサートに出演させていただきました。この稲城平和コンサートは、稲城市が平和都市宣言をした翌年から毎年開催されているそうです。27年前といえば、私が演奏家デビューする前ですから、長く継続されているのですね。素晴らしいことです。

私は1日にリサイタルを終え、精魂尽き果てた状態が続き、すっかり療養モードに突入。どれほど情熱を注ごうと、終わってしまえばあっという間に忘れ去られ、もう話題にもならないという現実に、自分の無力さと存在の無意味さを痛感していました。

でも、途方に暮れている場合ではありません。かつて散々お世話になった姜さんからお声が掛かったのですから。さらには大好きな崔岩光さんや楊宝元さんも出演するというゴージャスなステージは、絶対に逃したくありませんでした。

姜さんとご一緒するのは約10年ぶり。崔さんと姜さんが同じステージに立つのは、15年ぶりくらいではないかと記憶しています。この夢の共演を、エレクトーン一台でお伴できるのは、本当に幸せです。

姜さんとは、事前にリハーサルの日を設けました。姜さんは10年の間にますますスターになられ、私もささやかながら経験を重ねてきました。かつての呼吸感だけでは通用しないのではないかと心配しながらリハーサルにのぞみましたが、ひとたび演奏が始まれば、たちまち絶妙な掛け合いがよみがえってきて、なんとも楽しい時間でした。

崔さんとの事前リハーサルはなし。「神田さん、リハーサルより体のこと心配して。本番も、あまり力入れなくていいですから、とにかく無理しないで」とお優しいお言葉を。でも「お言葉に甘えてそのように」というわけにはいきません。気を遣ってもらった分も、必ず演奏で報いると考えるのが私の性分です。

当日は9時に会場入り。今の体調だと当日の移動で長時間の演奏は厳しいので、近くに前泊。これでずいぶんと体力をセーブでき、終演まで元気にいられました。会場では、すでに実行委員の皆さんが準備を始めてくれており、舞台裏は賑やかで楽しい雰囲気。私の回りにもサポートチームが集結してくれたおかげで、スムーズにステージセッティングが整いました。

音が出せるようになったタイミングで姜さんと楊さんが到着。おふたりとも本当にパワフルかつ底なしの燃料タンクを持っていらっしゃることもあり、「音が出せるなら、すぐに始めましょう!」とそのままリハーサルに突入。

今回は、二胡と琵琶の音色をじゅうぶんにお届けするために、簡易的なPAを使いました。二胡と琵琶、それぞれにマイクを立て、それをエレクトーンに入力し、エレクトーン用のパワードアンプから一緒に発音させるシステムです。

アコースティックでも、じゅうぶんに美しい響きが得られるのですが、オーケストラがトゥッティになる部分などはどうしても隠れてしまうので、マイクを使ってよかったと思います。姜さん、楊さんも、最初は聞こえ方に戸惑いがあったようですが、勘のよいおふたりですので、しばらくしたらコツをつかみ、いいバランスで演奏してくれました。

そこに崔さんも到着し、姜さんも加わる曲のリハーサルを。それが終わったら、「神田さん、あとはいいわね」って。「え、やりましょうよ」「ダメ、休んだ方がいい。疲れちゃうでしょ」「いえいえ、大丈夫です。軽くやらせてください」「だって、こないだやったばかりじゃない」「去年の11月ですよ。それに、蝶々さんは10年ぶりです」「じゃ、やろうか」。

このようなやりとりがあり、一通り合わせてもらい、私も一安心。それから、リハーサルで変更になった流れなどをスタッフと確認し合っていたら、もう開場時間に。急いで支度をして本番です。

この日は、菊池玲那がステージマネージャーデビューでした。途中で舞台の転換がたくさんあったのですが、きっちり頭に入れて、パーフェクトにやってくれたおかげで、私は演奏と司会に集中できました。

姜さんが二胡を演奏する時の感情の込め方は実に素晴らしいです。横で弾いていて、合わせるというより、引き込まれていくという感じ。それほどの激情や深い悲しみは、私の鍵盤では到底表現できません。

崔さんもステージでの存在感は抜群ですし、何から何まで本当に美しい。こちらも全力で奏でていかないとつり合わず、こんな風に燃えさせてくれる共演者には滅多に出会えません。

あっという間の120分でしたが、完全燃焼しながら、アンサンブルの醍醐味を満喫できました。