上海 Kaixinguoスーパーライブ

前日までの初夏を思わせる陽気はどこへやら。一転して冷たい雨の上海に逆戻り。クローズ公演とリハーサルの連続で、体力が底をつき始めているのでしょうか、晴れ男パワーも低調です。でも、今回のツアー中では、この開心果ライブが趙磊と最も濃厚なアンサンブルのできるイベントですから、絶好調で行かなくては。そんな強い願いが通じてか、ライブは大成功に終えることができました。

午後3時半。趙磊は楽団のリハーサルを終えて、ホテルで私をピックアップし、一緒に開心果へ。雨が降るとタクシーがなかなかつかまらず、しかも道はひどく渋滞します。

私はホテル正面玄関前で、車寄せに趙磊が来るのを待ちました。ロビーで待つ方が温かいし、荷物を抱えている必要もありませんが、趙磊が一度タクシーを降りてしまえば、次に乗るには長い行列に並ばなければなりません。それでは時間のロスですので、寒いのも重たいのも我慢して外へ出たというわけです。

待つこと20分。やっと到着した趙磊は、私が不機嫌になっているのではと、かなり気を遣っている様子。確かに上機嫌ではないけれど、雨のせいですからね。開心果まで、いつもなら10分程度なのに、渋滞で30分ほどを要し、限られたリハーサル時間は、どんどん消えて行ってしまいます。

ああ、悪循環に突入してしまった。こういうケースは、よいパフォーマンスをしようと意気込むイベントに限って、よく起こります。リハーサルをスタートしたものの、趙磊も私もいまひとつ気分が乗らず、納得のいかないままタイムアップ。

ひとたび控室に戻れば、2時間後の本番まで鍵盤に触れることはできません。その間、なるべくリラックスして、本番へのモチベーションを取り戻せるように過ごします。

まず開心果の美味しい中国茶で一服。なんとも心癒される香りと味わいです。そしてお粥をいただき、寒空で冷え切った体もぽかぽかに。そこにゲストからの差し入れが。

それが上の写真にある見事なデコレーションケーキです。本物そっくりに描かれたステージアと二胡。そしてブルーの愛らしい象。今回の演奏会の成功と、来週に迫った私の誕生日を祝って注文してくれたものです。ケーキを作ったのは開心果のパティシエール。味わうのは終演後ということにして、まずはしばらく眺めて楽しみました。

店内は満席の賑わいに。定刻より少し押してスタートした本番は、開心果オーナーのTAKAさんによる挨拶から。エンタの神様に登場しそうなほどいつも陽気なTAKAさんなのに、微妙に上品な話し方をしているのが面白くて、おおいにリラックスさせてもらいました。

第1部は私のソロ5曲。サウンドが、リハーサル時よりも格段にまろやかに感じられるのは、お客様が音楽を聞くために集まっている証し。繊細な一音も思い通りに弾かせてくれ、それをきちんと受け止めてくれる素晴らしいお客様です。

第1部を終え控室に戻ると、私はすぐにお客様の印象と手応えを趙磊に報告しました。音もこなれてきたし、何より音楽を求めているお客様だから、必ず気持ちよく弾けるはず。

いよいよ第2部。全曲アンサンブルです。選曲も編曲もすべて私がしました。テーマは二胡と趙磊の品格です。ライブハウス的空間だからこそ、趙磊の持ち味のディテールを伝えたいと考えました。私自身の価値は、趙磊の魅力を引き出す能力として示せばじゅうぶんです。

そしてもうひとつ、入谷麻友のデビューを、よい思い出として残してやりたいと思い、あえて5曲中の3曲目という難しいポジションで登場させましたが、堂々とした中にも10代の女性らしいやさしさの感じられる演奏は、お客様に高い好感度で受け入れてもらえました。

終演後になって思えば、この日の雨も恵みの雨だったのです。渋滞もなく、穏やかにリハーサルを終えて本番を迎えたなら、これほどメリハリのあるステージにはならなかったかもしれません。

そして、私自身の立ち位置も見えて来ました。趙磊が太陽なら私は月でいい。趙磊がこれか世界にら広く羽ばたく一方、私は同じエネルギーを音楽を深く掘り下げることに使いたい。

また、久しぶりに中国での演奏会を経験しながら、ものごとを自分に手繰り寄せることに気を取られるより、思い切って飛び込んでしまった方が面白いと感じるようになりました。

毎日発狂しそうなストレスですが、それを埋めるのにじゅうぶんな出会いもありますし、みんな私のことをとことんコキ使う一方、きちんと賞賛してくれます。

終演後、もったいないと思いつつも、ケーキを切り分けてスタッフたちと一緒に味わいました。正直、上海で食べる洋菓子は値段の割に美味しくないと思うことばかりでしたが、これは本当に美味。パティシエールの腕とライブ成功のダブルテイストは最高でした。