リーダーとエース

毎年楽しみにしている秋の恒例行事、佐賀県小学校巡回演奏会が、11月5日から7日まで開催されました。3日間で6つの小学校を訪ね、子どもたちと先生の熱烈な歓迎を受け、それに熱演で応えていると、次第に思いが募り、立ち去りがたい気持ちになります。

メンバーはサクソフォン波多江史朗、パーカッション石川昇平、ピアノ米津真浩と、エレクトーン私の4人。佐賀県は6年目ですが、鹿児島県時代を含めると、かなり長いユニットですので、アンサンブルの呼吸は絶妙です。

それぞれに特徴のある楽器と、個性溢れるメンバーによる演奏には、クラシックのみならず様々なジャンルのテイストを取り入れ、PA不使用の限界を越えたド迫力の演奏で、子どもたちを熱狂の渦に巻き込んできました。

一年ぶりの再会でも、会えばたちまち勘を取り戻す仲ですが、今回の旅では、結成当初から今日までの道のりを思いながら、携わった多くの方々に思いを馳せていました。

当初は、リーダーとして自分の思うような演奏会に仕立てることに躍起になっていた私。ある日、エージェントの女性から、「リーダーとエースは違う」というような苦言をもらいました。

これほど優秀な共演者に恵まれているのだから、私はただ見守っていればいい。それにはすぐに気づいたものの、実践するには何年も掛かりました。でも、今ではメンバーたちが窮屈な気分になることなく、力を発揮できる環境が出来上がっています。

よほどのことがなければ演奏にも振る舞いにも口を挟まず、ただひたすら面倒を見て引き立て役に徹している私。これが女房だったら、最高だと思いませんか? 我こそはなどと舞台で張り合うよりも、この方がずっとスマートですし、結果、聞いている子どもたちの満足に繋がっているのです。

波多江さん、石川さんは、そのスタイリッシュな容姿で、一瞬にして子どもたちの心を奪いますが、美しい音色やパワフルなプレイに触れるうちに、ますます引き込まれていくのが目に見えます。

そして今回とりわけ素晴らしかったのは、米津さんのピアノ独奏。日によっては手入れの行き届かないアップライトピアノを弾いてもらわなければなりませんでしたが、一言の文句もなく見事なショパンを届けてくれました。

さらに、ある日はバラード第4番を演奏。ショパンの作品の中でも傑作中の傑作ですが、小学生向きかというと厳しい気もします。しかし、演奏が始まると、まるで時間が止まったかのように空気が一変し、子どもたちがショパンの調べに聞き入ったのです。あまりに美しい光景に、そのあとマイクを握っても、言葉がなかなか出てきませんでした。

時には子どもたちの歓声が沸き上がったり、時には静寂が支配する音の神殿と化したり、体育館は刻々と表情を変えていきます。こうした時間を体験することの価値を言葉で表すのは困難です。

しかし、予算は真っ先に減らされ、あたかも勉強の合間の息抜きのように扱われることさえあると聞きました。確かに、教育現場もお金の掛かる課題が山積で、もう行政に余力はないのかもしれません。であれば、別の方法を探っていくことも必要だろうと思います。

無い知恵を絞って、継続に向けて努めていくつもりですので、どうか見守ってください。