古河労音がクラシック音楽をメインにした鑑賞団体となって35周年を記念した食事会が開かれ、お祝いの演奏に行ってきました。
会場となったカナルハウスは、主に結構式場として利用される施設で、周囲の環境とはまるで別世界の、おとぎの国のような雰囲気。平日の夜とあって、ほかにイベントもなく、どこかのお屋敷に招かれたような気分になりました。
リハーサルに与えられた1時間で響きを覚え、催しの流れなど、段取りを確認。ボールルームはカーペット敷きで響かないところが多いのですが、こちらは天井も高く、布を使っている部分が少ないので、とても演奏しやすく、いい感じです。
私の控室はお嫁さん専用室。紀尾井ホールの楽屋のような雰囲気で、必要なものはすべて揃っているのですが、私なんかが使っていいのか戸惑いがあります。
時間になると、ゲストたちが集まり、ボールルームは賑やかに。楽しそうな声や食器の音が控室にも聞こえます。演奏に向けて気持ちを整え、声が掛かるのを待ちますが、予定通りに進まないのがディナーイベント。何度も気持ちのタイミングを整え直しました。
登場は2階のバルコニーから。ふだん新郎新婦が入場するスタイルを、そのまま倣うことになりました。昔ならゴンドラとスモークで登場といったところでしょうか。
まずはバルコニーで立ち止まり、一礼。それからスポットライトが追うスピードに合わせて、ゆっくりと階段を降りていくようにとの指示に従い、実践。ステージには慣れていますが、さすがにこれは照れますね。でも、披露宴なんてこの先一生縁がないでしょうから、これもいい経験です。
それと、ステージではいつも、足元を見ずに常に視線を客席に向けるよう心掛けていますが、初めて歩く階段でそれをするのはけっこう難しいんだなと思いました。
いよいよ演奏。食事の後での演奏は、リラックス感がたいせつで、あまり緊張感や集中を高めない方が喜ばれるとされていますが、今回はふだんからクラシック音楽を聴いている皆さんの集まりですので、演奏会の感覚でプログラムを組みました。
もし、くつろいだ感じの方がよいとなれば、いつでも舵を切れる準備も整えてありましたが、皆さんの音楽への集中は実に素晴らしく、ボールルームとは思えないほどの静けさから演奏を始められました。
会場の空気に流され、自分が意図しないタイミングで演奏を始めなければならないケースは多々あり、その場合は、体勢を整えるの精一杯で、中身の薄い演奏になってしまうことが多いように思います。
今回は、何もかもを私のペースで進めさせてくれ、それが客席からも伝わってくるほどでした。また会場スタッフも配慮も素晴らしく、演奏開始時には食器の片付けも完璧に終わらせてあり、一切の雑音を立てませんでした。
音楽だけがそこにあるという空間が出来上がり、とても気持ちがいいひととき。かすかに聞こえる空調の風音が、まるでジェット機の轟音のように邪魔になるほどでじた。
出掛ける前は、前日のタクト音楽祭リハーサルで疲れ切っていたのですが、終わったら元気溌剌。やはりお客様と音楽を共有するのが、私には最高の栄養のようです。