5600年分の力

10月20日に開催された第26回東京新聞名流祭大正琴大会は、7つの流派が集い、3時間の熱演を繰り広げ、賑やかに華やかに盛り上がりました。私も様々な催しで様々な楽器と共演してきましたが、大正琴の世界は初めて。各流派の趣向を凝らしたステージはどれも音楽の楽しみに溢れ、ぴったりと息の合ったアンサンブルで観客を魅了。生真面目さと遊び心の絶妙なバランスに、おおいに刺激を受けました。

私が参加したヤマハ大正琴ヴィオリラ・サウンド・オーケストラは、これまで毎年新しいテーマを掲げ、それに適ったゲストとともに、華やかな演奏で人気を博してきました。今年はオペラをメインテーマに据え、さまざまな愛の歌をヴィオリラで演奏。30台以上のヴィオリラと奏者が並ぶ姿もまた壮観。燃える愛をイメージした揃いの衣装もさることながら、奏者たちの晴れやかに輝く笑顔がとてもまぶしかったです。

更に、応援に駆け付けたコーラスが、6グループ40名以上。これまたそれぞれに個性的な衣装をまとい、ステージに彩を添えてくれました。全体で約80名。平均年齢は低く見積もっても推定70才。年齢を足し合わせると、なんと屋久杉もびっくりの5600才です。

なのにと言っては失礼ですが、本当にエネルギッシュなのです。弾いたり歌ったりしている時の表情は、時に少年少女のような純粋さを感じさせ、音楽に触れるというのは、やっぱり素晴らしいことなんだとしみじみ思います。

各流派の持ち時間は25分。私たちは5曲のオペラ曲と第九を演奏しました。エレクトーンを指揮者に見立て、舞台中央で完全に背中を向けるセッティング。これは私にとっても初の試みです。リハーサル時間も限られているので、全曲を通すことはできず、音響さんが各曲の雰囲気を感じられるように、ダイジェストで流していくようなリハーサルとなりました。

音響や照明は、明治座のスタッフさんたち。多数の出演者、幅広いジャンルからの選曲、流派によってはリードヴォーカルやドラムスなども加わり、それぞれのイメージを生かしながら、まとまりのある音響を実現するのは、たいへんなことです。それを手際よくこなしていく様子は、さすがだなと思いました。

駆け足のリハーサルが終わると、一度解散。再度の集合は出番の約30分前。皆さん楽しくて仕方がないという雰囲気で、これから演奏というよりは、バスツアーで目的地に向かっているような感じです。そのワクワク感はスタンバイになっても、幕が上がって演奏が始まっても持続し、更には終演後、打ち上げ食事会と、私が目にした限り、永遠に続いていました。そんな高揚感の中ですから、本番の演奏はあっという間。皆さん、もっともっと弾いていたい、歌っていたいと思っていたことでしょう。

演奏中のお客様の反応も気持ちのいいものでした。クライマックスの第九の時には、クラシックコンサートのような集中した雰囲気も感じられ、客席との一体感がありました。初の弾き振りも、奏者の皆さんに助けてもらいながら、なんとか実現。ただでさえ両手両足がふさがり文字通り手一杯の状態で、各パートに的確な指示とインスピレーションを送るのは、想像以上に難しかったですが、もっと練って確立したいという目標ができました。

これまで、知ってはいても、さほど馴染みのなかったヴィオリラですが、今回約半年間のお付き合いを通じて、一気に身近な存在になりました。どことなくエレクトーンと境遇が似ていて、課題にも共通点があります。とにかく奏者の皆さんのパワーが猛烈ですから、この先の展開がおおいに楽しみ。期待しています。