第5回目となる周南第九コンサートが23日に開催されました。音楽の世界に身を置いていたのではない、ひとりの女性の強い思いからスタートしたこの第九。何から何までフツーじゃない、つまりクレイジーなほどにイレギュラーなのですが、有能で世話好きなブレインたちに恵まれて、幾多の危機をかろうじて乗り越え、何とか継続。幕が上がっただけでも涙涙なのですが、気付けば過去最高の出来栄えで、お客様から非常に高い評価をいただいてしまうあたりも、たいへん周南第九らしいのであります。
この成功を、関わったすべての人とご来場のお客様とともに、音楽を通じて分かちあうことができ、とても気分のよい一日となりました。とりわけ、役員の方々には、どれだけ感謝とねぎらいを表現しても足りないほどです。
さて、毎回、さまざまなアイデアを取り入れている第1部。今回は地元徳山高校の放送部とチームを組み、詩の朗読と音楽とのコラボレーションを披露しました。周南ゆかりの「まどみちお」さんが残した数々の作品から10編の詩を選び、音楽と組み合わせていくというもの。構想は早くにまとまりましたが、いざ形にするとなると、なかなかイメージ通りには進まないのが新企画。また、事前に学生と顔を合わせられる機会が一度だけしか設けられなかったので、学生たちも不安が大きい中での準備だったと思います。それでも顧問の先生と学生とでさまざまな工夫をしてくれたおかげで、たいへん魅力的な朗読に仕上りました。
音楽の方は、5編の詩には即興演奏を添え、残りの5編にはクラシック音楽を組み合わせることに。改めてまどさんの詩をじっくり読んでみると、穏やかで優しい言葉の中に深い時空が感じられ、音楽もそのような魅力を持つものが揃いました。あとは、舞台上の視覚的な演出ですが、大掛かりなことはできません。また、進行のテンポ感やタイミングがとても大切なのですが、誰も完成形を知らない初めての試みなので、すんなりとは行きません。それでも、前日のリハーサルでは、舞台監督や照明さんたちが工夫してくれ、シンプルな中にも変化に富んだステージが出来上がりました。
前日、当日と、時間をフルに使ってのリハーサル。もちろん第九もありますし、第1部オープニングの合唱もあり、すべての演奏に私のエレクトーンが関わっています。多くの皆さんと一緒に長時間のリハーサルをするのは久しぶり。グランドオペラのような空気感で、たいへんだけど楽しい時間です。ただ、自分の体力管理は自分で意識しておかなければなりません。スマホのバッテリーのように、残りが表示されれば便利なのですが。
さあ、いよいよ本番。開場した客席に賑わいが感じられる頃になると、緞帳の降りたステージでは合唱団がスタンバイ。主宰の門司さんは和服に着替え、メイクアップアーティストの手で衝撃的なほどに変身。朗読の学生たちは、舞台袖で互いを鼓舞し合いながら出番を待っています。
司会も放送部の学生が担当。開演のベルが鳴り、女子学生の明るく溌剌とした声がホールに響き、幕が上がります。舞台には整列した合唱団。穏やかな前奏に続いて、優しい歌声がふんわりと広がって、ホール全体を包み込んでいきました。華やかさよりも温もりを。そんな気持ちが客席にも伝わったと思います。
合唱2曲の次は朗読と音楽。舞台の準備をする間に、指揮者の中野さんから趣旨や聞きどころの紹介があり、続いて私が高校生8人を引き連れて登場。一同で礼をし、照明が一瞬暗くなる間に、フォーメーションチェンジ。最初の詩は、8人での群読です。タイトルが読み上げられると、私が音を奏で始め、やがてその音の波に乗せて、ことばが踊り出すのです。私はただその声に気持ちを委ね、感じたままを音にします。
詩が変わるごとに、学生たちはフォーメーションを変え、広い舞台をいっぱいに使って、まどみちおさんの持つ時空の感覚を表現。その独特の世界観が、ことばと音楽によって新しいカタチを成していく様子は、何か美しい自然現象を見るような感覚でした。
後半の詩とクラシック音楽のコンビネーションも、さらに相乗効果が高まって、予想以上に一体感のある、美しいステージになりました。リハーサルとはまったく違う空気が生まれ、学生たちがそれを楽しむかのように生き生きと演じていたのが印象的。お客様の存在もまた、大きな刺激と支えになったのだと思います。
実のところ、私は第1部がお客様にどう映るか心配でした。特に昨年はクリスマスソングをメインにした楽しいステージをお届けしたので、今回の言うなれば「聞く美術館」的な内容だと、やもすれば退屈と受け止められてしまうかもしれません。しかも、学生を交えての初披露ですから、裏付けも保険もなく、一歩間違えば大失敗になるリスクがありました。
結果は大好評。度重なる変更事項や舞台という特別な環境に屈しなかった柔軟な学生、ぼんやりとしたイメージしかないものを短時間でカタチにした舞台監督やスタッフ、そして幕が上がった瞬間から舞台の趣旨をバッチリ受け止めてくれたお客様。この3つの重なりが、大きな成果をもたらしてくれました。
第1部が成功に終わりホッとするのも束の間。次は第九です。周南第九合唱団だけでなく、姫路、加古川、宍粟などからの応援が加わり、幕が上がるのを待つステージは、緊張とワクワク感で満ちています。幕が上がり、いよいよ合唱団とお客様がご対面。そこにソリスト、指揮者、私が入り、演奏が始まりました。
管弦楽のみの部分が過ぎ、バリトンのソロ、そして合唱が加わると、音楽は一層熱を帯び、輝度を増していきます。勢いばかりでなく、調和も整い、継続あればこその進化が感じられました。客席の雰囲気の良さでも、五回の中では一番。一体感のある演奏になりました。
しかし、自分自身には課題が残ります。ひとりで稽古している時は、高い確率で、自分で理想とする音楽表現とともに無傷で通すことができるようになっている第九ですが、やはり全体で演奏する場合には思わぬ事故が起こります。今回は本番中も終始平常心で冷静だったので、その原因も見渡すことができ、今後の解決に向けた大きな成果となりました。
次回の神田将第九は2月12日の加古川です。エレクトーンによる第九は、まだまだ進化します!