せんくら2014を終えて

誰もが気軽にクラシック音楽に親しめるせんくら。今年も数々の名演奏家たちが熱演を繰り広げ、仙台の街は美しい音楽色に染まりました。ゆとりを感じさせる名手たちの陰で、ひとり必死にもがいていたのが、私。思い描いていた演奏には遠く及ばなかったけれど、それでも温かく迎えてくれた仙台の皆さん。最後まで支えてくれたスタッフの方々。東京に戻った今、「やっぱり音楽は最高!」という気分に満たされています。

今年は女王中村紘子大先生のご登場、話題の若手の参戦など、話題に事欠かないせんくらでした。私も参加6年目となれば、すっかり常連組の仲間入りです。こんなに親しんでもらえるなんて、初年度には夢にも思いませんでした。せんくらは、お客様もスタッフも本当に気持ちのいい人ばかり。だから、毎年楽しみで仕方がないんです。

でも、今年は準備に心底苦労しました。6年目ともなると、十八番のレパートリーは弾き尽くしてしまいましたし、せんくらはコンセプトが勝負!と思っているので、毎回魅力的なテーマを決めて、せんくらのための準備をしています。

今年も9月をほぼ空けて、せんくら準備に専念しました。演奏するのは4公演で全33作品。うち、19作品は私にとって初演です。オーケストラ用のスコアを探すことから始め、編曲、音色データ作成、演奏稽古と、それはもう眠る間もない日々が続きました。

10年前ほどの体力は残っていないところに、10年前の完成度では満足しなくなっているので、心身への負荷はますます重くなるばかり。さすがに限界かもと何度も何度も思いました。そんな気分で弾いていたってちっとも上達せず、負のスパイラル状態に。やはり、何事も土壇場では精神力と精神状態が結果を左右するのだと、つくづく思い知りました。

案の定、仙台での私の演奏は傷だらけでした。そのほとんどの原因が楽器の操作ミスに由来するもの。音楽表現に集中しようにも、複雑な操作に気を取られてしまい、これ以上傷口を広げないようにと慎重になってしまうこともしばしば。でも、エレクトーンで守りの演奏などしたら、それこそ機械の音楽になってしまうので、どうにか気持ちを音楽表現につなぎとめておくことに必死でした。

エレクトーンの特性上、操作から解放されることはなく、とりわけ初演時はなかなか満足の出来る演奏になりません。公開されているYouTube動画を見ればおわかりいただける通り、今でこそ毎回無傷で弾いている作品でも、リサイタルでの初演時には実にひどい演奏をしています。それとて私が弾いたものには違いありませんので、ありのままをご覧いただこうと、あえて公開を拒まなかった動画です。

今回のせんくらでの33作品も、それに近いものでした。でも、それが無益なものだったとは思いません。リスクを承知でチャレンジすることも、今のエレクトーンには必要です。どんな楽器も、洗練を極めるまでには、ハチャメチャの時代があったに違いありません。

せんくらで演奏した33作品は、今後も積極的にプログラムに取り入れていこうと思います。そして、近い将来、これらを誰にも恥じることのない品質で演奏できるようになります。私の音楽の幅を大きく広げてくれたこれらの作品に報いるには、最高の演奏で応えるのが一番ですから。

今回、仙台に行く前の私と帰ってからの私では、明らかに別人です。それほど刺激的で、得ることの多い3日間でした。憧れの名演奏家たちから学んだこと、お客様が教えてくれたこと、スタッフたちが気付かせてくれたこと。そのすべてを取りこんで、私はますますパワーアップします。ありがとうせんくら。