私はエレクトーン演奏家でありながら、YAMAHAが主催するコンサートやイベントにはほとんど参加したことがありませんでした。
YAMAHAには素晴らしい実力を持った専属のプレイヤーが多数いらっしゃいますし、フリーで活躍している人もコンクールなどを勝ち抜いてきた実力派揃いで、YAMAHAの中で名前が通っている人ばかりです。
私は決してYAMAHAを避けてきたわけではありません。私のように、YAMAHA内で無名で、エレクトーンユーザーにも知られていないエレクトーン演奏家などありえない存在でしたから、縁のない私が受け入れてもらえなかったのも無理もない話です。
ですから、最初は財団のプレイヤーさんたちがうらやましくて仕方がありませんでした。でも、人生を切り開くには待っているだけではどうにもならず、ひたすら道なき道を進み続ける以外なかったのです。
でも、今になって振り返れば、これでよかったと思っています。
音楽の現場で何が求められているのか、どう振舞うべきなのかを、一から体験することができましたし、素晴らしい方々に出会うことで、数多くの刺激を受けてきました。
もちろん、これらはたくさんの方々に支えられて手にしたものですが、実際につかみ取ったのは自分自身のこの手だったという実感を持っています。
私のコンサートにお越し下さるお客様のほとんどは、エレクトーンユーザーではありません。神田将の音楽を選んで下さった方々であり、お客様にとってエレクトーンとは、神田将が選んだ表現ツールという位置づけです。そのお客様は神田将を通じてエレクトーンを見て、理解を深めて下さっています。
一方、YAMAHAで行われるコンサートは、エレクトーンユーザー対象、もしくはエレクトーン普及や生徒募集のプロモーション目的である場合がほとんどですので、私が普段行っているコンサートとは趣きが大きく異なります。
私がエレクトーンの世界を「外側」から眺めていて感じるのは、YAMAHA内で推奨あるいは歓迎される音楽と、世の中で求められる音楽とはかなり違うという現実です。
コンクール入賞者の演奏を聞くと、それはそれは素晴らしく見事ですが、この素晴らしさを将来生かせるステージは、ほとんど存在しないのもまた現実です。
こうしたコンペティティブな選曲や演奏スタイルがいけないということはありません。人が全力で取り組んでいることに、誰もケチは付けられないのですから。
それに、あらゆるジャンルの音楽を、あらゆるスタイルで楽しめることも、エレクトーンの幅広さであり大きな魅力ですので、この幅をもっと広げて、芸術の域に達成させたいというのが、私の願いであり目的です。
そして、当たり前に音楽であり、より多くの人々に愛される演奏を確立したいと日々努力しています。
そんな思いが通じてか、最近はYAMAHAからもコンサートのお誘いを少しずついただくようになりました。
最初は、エレクトーンユーザーや先生方の前での演奏には緊張とともに戸惑いを感じましたが、今では、先生方の思いやエレクトーンを愛する方々の気持ちが伝わってきて、一般のお客様の前で演奏する時と同じように、「生きててよかった!」と実感しながら弾いています。
私にとってYAMAHAとは、私が魂を捧げられるだけの楽器を造ってくれた大切なパートナーです。これからもよい関係を保っていけるよう、努力しようと思います。