神田将yksonicチームメンバー紹介第3弾はWATAこと松信亘。
現在は私立高校で数学を教えながらも、エレクトーン演奏にいそしんでいます。
私の門下に入ったのは彼が高校生の頃。第一印象は「賢いが騒々しい子だ」というものでした。「騒々しい」というのは、「賑やか」とか「うるさい」といった類ではなく、「面倒くさい」に近い感じ。
でも、決してそれがイヤなわけではなく、もう少し落ち着きがあれば、本来の賢さがもっと活かせるだろうにと思わせる雰囲気がありました。
加えて、「自分は自分」という強い意志を持っている子だったので、出会った頃には帰国子女に違いないと信じて疑いませんでした。(実際は純国産です。)
それだけ強烈な個性を感じさせるのもひとつの才能。ある意味、芸能界向きなキャラが潜んでいるに違いありませんが、本人にその気はなく、もっぱら勉学とエレクトーンに打ち込みつつ、恋に悩む青年でありました。
あるレッスンの時は、恋破れたのかなんなのか知りませんが、宇多田ヒカルさんの「first love」を何度も何度も聞かされました。そうとう傷心だったのでしょう。それはもうこのうえなく感情がこもり、切なさが十分過ぎるほどに表現されていました。
WATAが素晴らしいのは、朝起きてまず最初に楽器に向かうという習慣を保ち続けていること。起きぬけの一曲からスタートする一日は、まさに音楽に彩られていくことでしょう。
社会人になっても、音楽と寄り添って生きていければ、ささやかながらも人生が豊かになるに違いありません。
そんなWATAが神田将チームで特別な力を発揮する機会があります。
彼の類稀な才能は「譜めくり」です。特に長丁場のオペラ公演の際には、譜めくりが欠かせません。
当然ながら楽譜が読めること。
舞台で必要以上に目立たないこと。
めくるタイミングが的確であること。
こうした要素をクリアした上で、それ以上の仕事をしてくれます。
楽譜というのは正確にめくればいいというほど単純ではありません。めくるタイミング、スピードが絶妙であればあるほど、演奏そのものにプラス効果を与えます。
少しでも動くと見失いそうな細かい音が続く場合など、「この位置ではめくってほしくない」という場所が多々ありますが、こうした危険地帯を嗅ぎわける能力にもWATAは長けています。
さすが数学を教えるだけのことはあると感心するのは、一度全曲を通してしまえば、楽譜のおおまかな図形を記憶できるらしく、2回目からはめくるポイント以外は楽譜を見ず、後ろのイスに座って本を読んだりメールしているところ。
さすがに本番の時は集中しているようですが、実際、譜めくりの人が緊張していると、弾く方としては空気が乱されて気になるので、WATAのようにニュートラルでいてくれるのが理想です。
おそらくWATAは、譜面を追いながらも、私の醸す空気や目線の変化に注意を払っていて、そこからタイミングを割り出しているのでしょう。演奏家と譜めくりの間にも信頼関係が必要ですが、その点、WATAだと安心です。
最近はオペラを弾くことも少ないのでWATAの活躍をご覧いただく機会がありませんが、リサイタルの際には接客係となって皆さまのご案内役をさせていただきます。