My箸と追憶

昨年、第一電装部品の50周年記念パーティに出席した際にネーム入りのMy箸をいただきました。

恥ずかしながら、これまでMy箸を持ち歩く習慣はありませんでした。これをいただいたのを機に、ようしmy箸を使うぞと意気込んだのですが、いざとなるとせっかくの記念品を下ろすことにためらいを感じ、なかなか使うチャンスが廻って来ませんでした。

会席料理などでは、新しい割り箸を下ろす行為にも、丹精込めて造られた料理を心して味わう上での節目があるような気がします。

また、人との会食で自分だけMy箸を使うと、同席している人にバツの悪い思いをさせてしまうかもしれません。

そんなわけでなかなか使えなかったMy箸ですが、今日、デビューすることができました。

今日は、エレクトーンシティで演奏の収録がありました。演奏音声だけでなく、演奏風景の録画だったので、一応、コンサート同様の支度で望みました。

演奏したのは、2月に開催された「第5回電子オルガンの為の作品公募」の本選で奨励賞を獲得した、久保葵さんの作品「Remembrance」。

2月の本選でも私が演奏したのですが、高度な技術を要する大作にはとても苦労しました。今回は記録に残る収録ですので、完成度の高い演奏が求められます。

そこで、この曲に専念して稽古する日を何日か確保して、じっくりと弾き込んで来ました。でも、弾けば弾くほど、それまで見えていなかった問題点や、こうしたいという欲求が増えて来て、完成の域からどんどん遠ざかっているように感じました。

技術的な面からは、得意の「スローモーション練習」で筋肉の動きまで丁寧にシミュレーションし、音楽表現の面からは、直感的なインスピレーションを大切にして感覚で弾くよう心掛けましたが、これら異なるアプローチの接点を見つけるまでには、かなりの時間を要しました。

ひとりで弾いている限りでは、まずまずの仕上がりと言えるまでになったのですが、今日、作曲した久保さんの前で披露した時には、収録前だというのに余計なスイッチが入り、勢い余った演奏になってしまいました。

収録本番で、いかに抑制を効かせるかがカギとなりそうです。その収録本番を待つ間、ふだん感じたことのない緊張に悩まされました。演奏を待っているというより、手術室に入るのを待っている気分です。

やがてホールに呼ばれ、収録のリハーサル。照明デザインの調整を行い、いよいよ本番です。与えられた時間は1時間。その時間内なら、何度でも弾きなおすことができますが、経験上、早い段階で決めてしまうのが得策です。

テイク1。順調なスタートで、そのまま波に乗って弾くことができました。このままクリアかと思いきや、エンディング間近で致命的なミス。

テイク2。ガッカリの動揺が残り、冒頭から「さっきの方がいい」と感じてしまい、なかなか気分が乗りません。しかも、爪が裂け、鍵盤が赤くなってきました。でも、とりあえず最後まで弾きました。

小休止してテイク3。何とか持ち直し、フィニッシュ。久保さんにいかがでしょうと尋ねると、いいと思いますと言ってくれたので、時間はたっぷり残っていますが、上がりにしました。

これで満足できたのかといえば、明らかにNOです。でも、不器用な私にとって、密室での洗練はこれが限度かもしれません。

私の場合、恥を承知で人前で弾き続けることで演奏を磨いてきました。何年も掛けて、ステージで何十回、何百回と演奏を重ねることで、やっとその音楽に馴染むことができたと感じられるようになります。

この「Remembrance」も今日がゴールではなくスタートです。新しく世に出た作品を、また演奏する機会を見つけ、いつまでも弾き続けていきたいと思います。

(今日の演奏は全日本電子楽器教育研究会のサイトで公開される予定です。)