演奏する時には、いつもと違う自分になれる。以前はそう思っていました。自分自身の人生では到底体験できないような世界に身を置き、俳優のように自由に演じるのはとても楽しいものです。
最近、新しい発見をしました。ふだんの自分こそが日常を演じているのであって、むしろ演奏している時がほんとうの自分に近いことがわかったのです。
たぶん、コンサートで弾いている時の私が、一番人生を楽しんでいる瞬間です。準備や稽古はたいへんですし、時に面倒だと感じることもありますが、たとえコンサートがたくさん続いても燃え尽きることはありません。
近年の私は数多くのコンサートに恵まれ、弾くことが日常になっていたので、自分でいられないという閉そく感に悩まされることもありませんでした。
今は、また憧れのステージに戻れる瞬間を夢見ながら、解き放つエネルギーを蓄えています。そして、自分が生きている意味を、もう一度実感したいと願っています。