何とか晴れて欲しいと願っていましたが、雨は夜通し降り続きました。少しくらいの雨でも、空に向かって歌いきろう。そう皆で決心していたものの、一緒に出演する子どもたちのことや、芝への影響を考えて断念。
もはや中止かと思った矢先、瑠璃光寺の本堂を使えることになったという知らせが入りました。
雨の場合も考えて、露天に設置するエレクトーンへの対策も練ってありました。張家界での経験上、エレクトーンはかなり丈夫に造られており、滅多なことでは故障しないことはわかっています。
でも、今回は個人の所有楽器をご厚意でお借りしているので、いつになく慎重に扱わなければなりません。
雨脚はさほど強まることもありませんでしたが、すっかり上がるということもなく、境内の池にはいつも波紋が広がっていました。
演奏会の当日でさえなければ、雨の瑠璃光寺も素晴らしい雰囲気です。湿った葉の匂いと香の芳しさが、なんとも言えない荘厳な空気を作り出しています。
この静けさをよそに、本堂には合唱の出演者総勢250人が集い、スタッフとともに準備を進めています。順にリハーサルを行いながら、互いの歌声にうっとり。
子どもたちの合唱が3組出演したのですが、いずれの組も実にすがすがしく、そしてたいへん表情豊かな演奏でした。
コンサートは午後1時半に開演。代表や来賓のあいさつの後、まずは私のソロ演奏から。今日はチャイコフスキーの悲愴、ヴェルディの運命の力、ラヴェルのボレロを演奏しました。
私のイメージとしては、時計を一度3月11日に巻き戻し、そこから徐々にプラスのエネルギーへと上昇させていき、最後に第九の歓喜で終わるという筋書きです。
続いて子どもたちの合唱3組。これらは学校の先生が指揮や伴奏をしました。
次は第九を歌う会「アンディフロイデ」と子どもたち全員による大合唱で「ひとつ」と「大地賛讃」を。これぞ全員のこころがひとつになるという実感!
最後は第九。約30分の演奏は、エネルギーの炸裂です。私の体力も限界に近い中、残る力を振り絞るようにして弾きました。
多くのお客様は、本堂の前で傘をさし、立ったままで聞いて下さっていました。長時間にもかかわらず、熱心に聞き入ってくれるその姿に、胸がいっぱいです。
ここでちょっとこぼれ話を。実は、ふだん、私は素足(靴下)のままエレクトーンを弾くということはまずありません。本番はもちろん、足の保護のため、稽古も常に靴を履いてします。
しかし、寺の本堂で靴を履くわけにはいかず、今回は靴下で演奏しました。リハーサルを終えた時点で足の裏が腫れて、右足小指はプログラムチェンジ用スイッチを操作するために出血するほど。本番はかなりきつかったです。
また、古い建物なので床が完全に水平でなく、さらにどうしても板に乗り上げる場所にしか設置できなかったため、楽器がわずかに傾いたままで、イスの高さも1センチ近くずれているという状態でした。
リハーサルの時は気にならなかった(というか、気にしないよう努力した)のですが、本番になり演奏の勢いが急激に増した時、そのわずかなずれが、深刻な悪影響を及ぼしてしまいました。
かなりの高さから垂直に打鍵すると、鍵盤ひとつ分くらいずれてしまうのです。それを常に気にしながら弾いていたので、今日は非常に肩が凝りました。
もしソロコンサートであれば、このような妥協した状態では決して開演しません。今日は合唱団の演奏会ですので、私のことは二の次でしたが、やはり楽器本体もイスも、水平で同じ高さの場所に設置する必要があることを学びました。
終演後は、次第に人が散ってゆく境内と雨を眺めながら、しばらくぼんやりと過ごしました。汗だくのスーツがひんやりと冷めていくのが気持ちよかったです。
そしてアンディフロイデの皆さんと、菜香亭でレセプションを。菜香亭はかつて山口を代表する高級料亭でしたが、閉店後、建物を移築して、市民が気軽に利用できる貸しスペースになっているのだとか。
庭園を眺められる大広間は一見の価値あり。その大広間で今日一日の成果を喜び合い、次への意欲を刺激し合いました。
五重塔をバックにした野外コンサートは実現しませんでしたが、代わりに瑠璃光寺の本堂という類稀な場所で演奏することができ、大切な思い出が増えた一日でした。