木曜日の午前中に訪ねた小学校では、なにごとにも物怖じしない頼もしい子どもたちと、ヤギのリンに出会いました。
朝の冷え込みはいよいよ厳しくなり、遠くに見渡す山々も、一気に白いところが多くなりました。青空は眩しく、学校の裏山も輝いています。
ヤギのリンは、校庭の隅に設えられた柵の中で暮らしています。聞くと、リンはこの地で産まれたそうです。でも、母親に先立たれ、今はひとりで生きながら、毎日学校に通う子供たちを見守っています。
コンサート会場となる体育館は、リンの柵のすぐ隣にあります。リハーサル中も、リンの鳴き声がしばしば聞こえて来ますが、それはお世辞にも「美声」とは言えません。
どこかヤギらしさに欠け、なんだか鶏のよう。それもそのはず、柵の脇には鶏小屋があり、そこには鶏が飼育されています。リンはお母さんの声しか聞いたことがなく、それも記憶の彼方に消え去ろうとしているのかもしれませんね。
そして、隣で朝な夕な鳴く鶏たちに感化され、しゃがれた調子はずれの声になったとも考えられます。そうに違いないと思わせるような、ぎこちない鳴き方もまた、リンのチャームポイントです。
リンの声が私に聞こえていたのですから、きっと私の奏でる音楽もリンに届いていたことでしょう。どんな表情で聞いてくれたのでしょうか。少なくとも、弾き終わった後に見たリンの顔も、優しく穏やかでした。