上海 3A.M.

ただいま上海は午前3時。いつもは賑やかな広告映像やライトアップもほとんど消灯し、街は束の間の眠りに就いています。

でも、自身のリサイタルを目前に控えたツァオ・レイは今も眠れず準備に追われているに違いありません。

ここ数日の彼を見ていて、体力的にも精神的にも大変だろうなと心配しながらも、夢をかなえるためにすべてに耐えて臨んでいる姿に心動かされています。

私も自分のリサイタルなどで毎回ジレンマになるのが、音楽への集中と、それ以外の事務的な事柄への対処とのせめぎ合い。音楽にフォーカスしてギリギリまで質を高めたいと思いつつも、その他のことに追われて、どんどん精神的に追い込まれていくわけです。

まさに今のツァオ・レイがそんな状況にあり、その時の気持ちが私にも痛いほどわかるので、どうにかして支えになってやりたいと考えますが、実際には本人が乗り越えるしかありませんし、この峠を越えてこそ、音楽的にも人間的にも成長出来るのかもしれません。

そして泣いても笑っても、16時間後には幕が上がります。そこに、自分の一番いい状態を持っていけるかが成否の鍵。音楽庁のステージでは、おそらくこの時間も舞台準備が進んでいるはず。会場周辺にはこのコンサートを知らせる数多くの横断幕や巨大ポスターが掲示され、演奏会への期待の大きさを伺わせます。

私に出来る最大のサポートは、共演者として彼が気持ちよく弾き狂えるよう音楽を作ること。アンコールを除けば、私の出番はわずか10分ですが、プログラム最後の曲ですので、そこに込めるツァオ・レイ自身の思いの深さを十分にくみ取り、最高のパートナーを演じたいと思います。