真夏のさくら

日曜日のコンサートから二晩が明けてもなお、けだるい疲労感が残っています。そこに飛び込んできた訃報。それは、いつもコンサートを客席から応援してくれる素敵なお客様の旅立ちでした。

コンサートのお客様ですから、お名前はうかがっていても、どんな人生を歩んできたのかを知る機会はありませんでした。

とても上品で優しい雰囲気を持った女性で、どことなく私が大好きだった祖母の面影を感じることもあり、親しみを持っていました。

もちろん22日の渋谷にも駆け付けてくれ、あの急坂と階段を上がり切り、心地よさそうに日本の音楽を聞いていたというのに。

私が弾くさくらをとても気に入って下さり、22日もその方のリクエストでアンコールをさくらにしたのですが、それが私のソロを聞く最後の機会になってしまいました。

この先、まだ何度となくさくらを弾くことがあるでしょう。その度に、この女性に思いを馳せながら演奏します。

かつては一人で突き進むことに夢中で、客席で見守られることの価値を感じ切れていなかった私ですが、最近は客席のお客様ひとりひとりがいとおしくてなりません。

そんな風に感じ始めた矢先のことでしたので、ひときわ寂しさが胸に沁みます。