昨日は北千住の隠れ家的地下小劇場の印象を話題にしました。今日の話題は上海にある世界最大の地下劇場からスタートします。まだ生まれて1年半足らずの美しく壮麗なホールは、私が生涯で最も気持ちよく演奏できた空間のひとつです。
昨年の秋以降、中国本土での演奏会は企画そのものが思うように進められない状況にありました。まだ過去形にし切れない部分もありますが、少しずつ前進しています。
停滞していた期間、コンサートに携わるスタッフたちの誰ひとりとして士気が下がったわけではありません。私は常に演奏会を熱望していますし、中国の皆さんも神田将の音楽をと、それはもう熱心。心からの感謝でいっぱいです。昨年、私を虜にしたこの地下劇場も、今年また私にチャンスを与えてくれることでしょう。
このような国際的で壮大な演奏会は、私ひとりの努力では決して完成しません。多くの手順を踏み、人々の知恵と労力にたくさん助けられ、やっと数時間の夢のステージができ上がります。
そんなステージで演奏している時の気分はたとえようがありません。私自身は感無量で楽しんでいるという感じ。その一方で、私を超越したもうひとりの私自身が、凄まじいエネルギーで音楽を奏でます。それはなんとも不思議な感覚です。
それが、小さな会場となると、ガラッと状況が変わります。50人くらいのコンパクトな空間、客席が近い場合、そして自然光の入る昼間の演奏会。これらの条件下だと、私は別人化しません。自己を意識すると同時に聞き手の存在を実感しながら、聞き手と聞こえない対話をしているような感覚です。
凄まじい圧力で自分を超えるチャンスを与えてくれる大ホール。聞き手との交流で音楽の価値を再認識させてくれる小空間。どちらも得難い経験です。