旅先での朝食は、旅そのものの質をあんがい強く印象付けます。最近は相当な高級ホテルでもブッフェスタイルで提供するところが多くなってきました。バラエティ豊富な料理が並んでいるのは見るだけでも楽しいのですが、朝からバタバタと慌しい雰囲気の中で食べなければならないという場合も少なくありません。
中国なら朝がゆ、ハワイならパンケーキと、旅先ならではの味わいも魅力的。日本の場合、代表的なのはもちろん和朝食ですが、カレーライスが並ぶホテルが多いのも特徴的です。
そんな多彩な朝食の中で、一番思い出に残っているのは、パリの朝食です。クロワッサンとフレンチローストコーヒー、そして濃厚なヨーグルトを少々。このコンチネンタルスタイルは、一見シンプル過ぎてもの足らないかのようですが、パリでの思い出になぞらえて、今も同じパターンを繰り返すことがよくあります。
これだけシンプルだと、クロワッサンもコーヒーもヨーグルトも、すべてが絶品でなければダメです。日本はフランスに負けず劣らずパンの美味しい国ですので、味という点では日本でもじゅうぶんに満足できます。でもどうしても足りないもの。それはパリの風景と空気です。
今朝も宮井クラスの時に定宿にしている大阪のホテルで朝食を。ブッフェ台には食べたいもの(食べられそうなもの)がほとんどありませんし、ここでは本場の味はのぞめません。
そこで大きなクロワッサンをひとつ。係がとびきりの笑顔で入れてくるコーヒー(ところが毒水のようにまずい)。味気ないドリンクバーから注ぐトマトジュース。薄いヨーグルト。これだけしか取らなくても、鬼のように食べまくっても値段は同じ。ランチならフレンチのコースが食べられる料金。
なんか損しているよなぁと思いながら、一瞬目を閉じて「ここはパリ」と自分に言い聞かせます。遠くのテーブルでくつろいでいるエアクルーはロシア人。ロシア語を聞いてもパリにはなりませんが、そこはなんとなくインターナショナルな気分ということで。
パリの味とは程遠いのですが、あの日の自分を思い出して、若かりし日のエネルギーを呼び覚ますのです。まだまだやりたいことがあります。元気でいなくちゃ。