たったひとつの旋律

今日も一日中稽古三昧。やっぱり集中して音楽に接している時が、一番心落ち着きます。夕刻からは山形さんとの最終合わせ。一晩で、またまた音楽は大進化を遂げました。

今日も約束の時間にスタジオに入り、必要な伝達と軽い雑談をしてから、すぐにスタンバイ。16日に演奏するピアノコンチェルトを、全楽章通して演奏しました。

互いに昨日感じた課題を持ち帰って、それぞれに工夫をしてのぞんだ今日の合わせ。違和感があったところは、すっかりクリアになりました。あとは個人的な問題を残すのみです。

リハーサルは一度の合わせで終了。スタジオに入って40分後のことです。まだたっぷり時間はありましたが、変に消耗して問題を増やすより、緊張感と不確定要素を残した方が本番が楽しくなりますので、早々に切り上げました。

私は居残り稽古。オーケストラパートをひとりで演奏するのも楽ではありませんが、超絶技巧の極みといった感のピアノパートに比べれば、ビギナーレベルです。

でも、それは単に弾くだけならの話。複雑に絡み合ったフレーズのすべてに命を与えるのは、エレクトーン演奏の域を超えた感性が求められますし、非常に高度な技術が必要です。

ソロ演奏なら、エレクトーンってすごいなぁという魅せ方をするのもいいでしょうけれど、ピアノコンチェルトを演奏するのに、そのような茶番は不要などころか、むしろ邪魔。手がおかしくなしそうなほどの工夫を含んだ演奏を、あたかも何ごともないかのように、あっさりと行わなければなりません。

オーケストラで演奏すれば何と言うことのない部分も、ひとりとなるととたんに困難になることしばしば。バレエダンサーの苦労が、ほんの少しわかる気がします。

それに加え苦労しているのが、技術的には容易であるにもかかわらず、表現が難しい部分。何度弾いても、理想のニュアンスが出て来ません。弾けば弾くほど行き詰るようで、自分の歌心のなさにうんざりします。

そんな時は、できるだけ邪念を振り払い、もしこれが私が知っている唯一の旋律だったらと自分に問いかけます。そして深呼吸をして、唯一の旋律を奏でる唯一のチャンスだと思って弾いてみます。魔法のようにすぐには激変しませんが、わずかに光がさし始め、やがて答えが見えて来ます。