30周年にいただいたソロ公演の機会、ラストを飾りましたのは、宮城県利府町でのエレクトーンコンサートでした。
宮城県といえば「せんくら」。2009年に初登場して以来、本当によくしていただきまして、宮城県の皆さまには感謝が尽きません。震災の時はともに祈り、0歳からのコンサートでは一緒に高い高いをしたり、単なる弾き手聞き手を超えた関係を築いてまいりました。
そんな特別な思いを抱きつつ、恩返しの気持ちで向かった利府町。なのに、私の意気込みや熱意を遥かに上回る歓迎を受け、いたく感銘を受けました。歓迎と言っても、ご馳走や酒が振る舞われたわけではなく、私がよい演奏をするために必要とするすべてを整えてくださったのです。これこそ私が熱望するものであり、これさえあれば他は何ひとついらないというのが本音です。
では、それが何かと言いますと、端的には不安なく弾ける環境です。整備された楽器、理想とする音響、何かあればすぐに対応しようと構えてくれているスタッフ。加えて極めて効果的な照明演出があり、演奏に向かう心をさらに熱くしてくれました。
会場入りは前日。到着した時にはリハーサルが始められる状態にあり、私は荷物をちょいと置くなりすぐに弾き始めることにしました。それがあまりに心地よく、そのまま全曲を通すリハーサルとなったのですが、その間、こちらから要望することはひとつもなく、最善の状態がさらに洗練されていくのを感じながら弾きました。
これは驚くべきことです。なぜなら、私の演奏曲目やエレクトーンの特性をじゅうぶんに予習してこそ可能なことであって、気持ちや熱意でできることではないからです。その完成度は、音楽に光を添えたとか、音響を弾き手の好みに合わせたという域ではなく、私にとってはエンジニアと組んでダンスを踊る感覚でした。コラボとは、本来こういうことを示す言葉だろうと思います。
光に反応して音の表情を変えながら弾いたことも面白かったですし、いつもと異なる音質であっても違和感はなく、むしろ新鮮な感覚で弾けたことも我ながら驚きでした。
このリハーサルを終始客席で聞いた両親が、珍しく感想を口にしました。まるで時間の感覚がなく、あっという間だった。音に包まれるようで、まるで自分だけのために演奏されている感じで得した気分だと。であれば、私はできるだけ集中力を高め、緻密な演奏を心掛けるのみです。
当日。予定通りに会場入りすると、前日同様、ステージは完璧に準備されていて、いつでも好きなだけ弾ける状態になっていました。少しでもよい演奏にするため、細部を丁寧に調整し、満を持して本番を迎えるのは、なんとも気分がいいものです。
私がリハーサルをしている間、両親がせっかく利府まで来て何も見ないでは可哀想なので、マネジャーの上田に任せて観光に連れ出してもらっていました。観光名所になっている「馬の背」を訪ね、定食屋で焼き魚を食べてきたとか。私は会場とホテル以外にどこへも行けませんが、そうして両親が楽しんでくれていれば、安心して演奏に向かうことができます。
定刻通りに開演した本番。お客様は子どもさんから両親と同じくらいのお歳の方々までさまざまですが、皆さまがっつりと聞いてくださり、手ごたえじゅうぶんで弾きやすかったです。
ひとりで弾いているのに、ステージマネジャー、照明エンジニア、音響エンジニアの方々と、一緒にオーケストラを組んでアンサンブルしているような連帯感があり、これまでにない新しい感覚。そこにお客様の熱い視線や期待が重なり、これぞまさにライブという空間になりました。
アンコールは楽しくラデツキーマーチを。2時間弾いて、体力的にはガス欠寸前ながら、心軽く、本当に楽しかったです。最高のチームに乾杯!お客様には大感謝!ありがとうございました。
写真:上田海斗