昨年に続き、千葉市美浜文化ホールでの田中泰さんナビゲートによるレクチャーコンサートに招かれ、たっぷり喋って弾いて、楽しい時間を過ごして来ました。
今回のテーマは没後100年のプッチーニ。第1部前半では、田中さんがスクリーンの画像や貴重音源を活用しながら、プッチーニの人物像と作品の魅力について掘り下げました。真夜中にシングルモルト片手にまどろみながら聞きたいような、ダンディで落ち着いたトーンが心地よく、話の内容がスッと染み込んできます。
第1部後半は、演奏者3名がトークに加わり、田中さんからインタビューを受けるスタイルで、それぞれのプッチーニ像や、第2部演奏曲目の聞きどころについて、巧みに聞き出してもらいました。
こうした前置きがあって、お客様の心がプッチーニのイメージで満たされたところで、いよいよ第2部の演奏です。
まずはエレクトーン独奏で「マノン・レスコー」間奏曲。この日に弾くために編曲をし、この日によい演奏ができるようにと、9月以来あちこちで弾いて、大好きなレパートリーとなった曲で幕を開けました。
続いては、「ジャンニ・スキッキ」から。今年のセイジ・オザワ松本フェスティバルで大役を務めて大反響を得たふたりですから、ハマり役というくらいに完成されているので、私が足を引っ張ったら一大事。それぞれアリアとしては短く、通常ならさほど緊張を強いられる曲ではないのですが、今回は緊張しました。フレッシュで爽やかにまとまったと思います。
ここで「蝶々夫人」の間奏曲から。新しく清々しい朝の訪れを描いた軽快な曲想が、悲劇の中で一層輝く部分。日本情緒がふんだんに織り込まれ、プッチーニのエキゾチシズムがよく表れています。
次は、全編が聞きどころで、どこを切り出してもドラマチックな「トスカ」から、とびきりのハイライトを。トスカとカヴァラドッシの愛のテーマが主軸となるデュエットに始まり、「トスカ」だけでなくすべてオペラの中でも名曲中の名曲と誰もが認める「歌に生き、愛に生き」「星は光りぬ」の熱唱に、客席は息を呑みました。
その甘く切ない余韻を打ち破るように「トゥーランドット」の序奏と茉莉花の部分を。甘美な名旋律を書くイメージの強いプッチーニの、もう一つの顔のように対照的な曲想を楽しんでいただきました。
ラストは「ラ・ボエーム」。第1幕後半のシーンをオペラさながらに演じる姿に、まるで大きなオペラハウスで鑑賞しているような気分を味わっていただけたことでしょう。ステージに装飾はありませんでしたが、照明の効果が季節感や時間帯を表し、おおいに想像力を刺激する演出になっていました。
惜しみない拍手を頂戴した後、アンコールは「ジャンニ・スキッキ」の最終シーンを。若い恋人同士が想いを確かめ合うハッピーな場面は、弾いていても気持ちがよく優しい気分になります。最後はナビゲーターの田中さんが口上代わりの挨拶を言い、陽気に幕となりました。
こうしてプッチーニの12作品のうち、半分の6作品を駆け足で辿ったレクチャーコンサートは大好評のうちに終えることができました。
今回の企画に声を掛けてくれた内倉さん、会館の太田さんには、新しい出会いを与えていただき、心より感謝いたします。
ソプラノの藤井玲南さん、テノールの澤原行正さんとは、末永いお付き合いになるでしょう。田中泰さんともよい関係を築けましたし、神田チームの鈴木真紀子さんと上田海斗も、たいへん頼もしく支えてくれています。
演奏の成果はもちろんですが、こうして人との関わりが拡大していくことも、公演成功の大きな醍醐味です。
写真:上田海斗