7/28 風雅の宿にて

駅から送迎バスで45分。水原駅辺りまでは整ったバイパス道路をスピーディに通り抜け、そこから先は見渡す限りの田園風景の中を走る。東京から3時間足らずで、伊豆へ行くよりも手軽に、はるばる来たなぁという旅気分を味わえる村杉温泉。

宿に着くとぬくもりある出迎えを受けて、庭園を見渡すラウンジを勧められ、冷たいお茶を一服。耳を澄ませば、庭からいろんな夏の声が聞こえてきて、体と気持ちがすっと和らいでいく。ここは疲れた人にこっそり訪れてほしい癒しの宿です。

もうかれこれ10年ぶりの再訪ですが、ほとんど何も変わっていません。そこがまたいい。静けさ、優しさ、素朴さ。さりげなく整えられた清潔な施設も心地よさを倍増してくれます。

演奏会の仕事で訪ねたのに、宿は客人としてもてなしてくれ、私もまた遠慮せずにそれを満喫しました。きっとその方がよい演奏会になりますから。

まずは長年の交流がある大女将と再会。ロビーから食堂に席を移し、松花堂弁当をいただきながら、思い出話に花を咲かせました。催しの多い旅館ですから、これまで数知れないアーティストを迎えて来たでしょうに、私のことをとりわけ身内のように可愛がってくれる大女将は、田舎のお母さんのような存在です。

食事の後は、会場を整えるよりも先に庭園露天風呂で村杉温泉のぬる湯に浸かり、心身を整えました。このままいつまでもボーっとできたら最高ですが、会場では係が準備して待っているので、リハーサルにコマを進めます。

本来は庭園にステージを設えて演奏会をする予定でしたが、この日はあいにくの空模様。なんとか降らずに持つかも知れないとも思われましたが、万が一途中で降り出したら場所移動は難しいので、今回は屋内で演奏することになりました。

少しでもお客様に庭園風情を感じていただこうと、ステージ脇に竹あかりを並べたり、照明を月明かりくらいまで抑えるなどの工夫を重ねたら、確かにまるで庭にいるような雰囲気に。窓の向こうにはライトアップされた樹々の緑が映え、雨や虫の心配なく絶妙な会場に仕上がりました。

リハーサルを終える頃には、催しのお客様が次々と宿にご到着。お泊まりのお客様はしばしお部屋やお風呂でくつろがれて、日帰りのお客様はラウンジでのティータイムをお楽しみに。ご常連様も多く、何度もお目にかかっているお客様と談笑するなど、私もパーティに参加している気分でした。

お客様が宴会場でお食事をしている間、演奏会場の最終チェックを。ほどなくお食事を終えたお客様が、演奏会場へと集まって来ました。宿の社長から挨拶があり、演奏会がスタート。庭園で弾くことをイメージして選んだ曲目は、優しい旋律のもの、情熱的なリズムのものを効果的に組み合わせました。100名様弱の限られた会ですので、どこに座ってもSS席。手足の動きと窓外の風景を一緒にご満喫いただけたことと思います。

お客様と写真を撮ったり、歓談しながら、催しの余韻を楽しみ、日帰りのお客様をお見送りした後は、宿の社長らと会食を。催しで人が集い、美食や音楽で心を満たしたところで交わされる会話が、地域の活性化にどれほど有益か。宿はそうしたコミュニティの場を提供し続けるべきとの社長の言葉が深く印象に残りました。

用意された客室は立派な日本建築で、180度を庭の緑が囲う絶好のロケーション。部屋の照明をぼんやりと落とし、空調を停めたら、自然の音が浮き上がってきて、窓を閉じていても、まるで庭に寝転んでいるような感覚です。

名古屋-霧島-新潟と、7月はよく頑張りました。生きて帰るのが目標などと、冗談ぽく口にしていましたが、乗り越えられる自信も日毎に減少して、文字通り這って動く日もありました。そんな状況でも日々胸を張って笑顔で成し遂げられたのは、各地の主催者、マネジメント、サポート役の皆さんが完璧に支えてくれたからこそ。自力でできることに自信がなくても、頼れる人がついていれば大丈夫。希望が湧く7月でした。

8月は茨木公演一本勝負です!ぜひぜひ直接応援の声を掛けに来てください。お申し込みをお待ちしています。