第45回霧島国際音楽祭(5)

徳之島空港ターミナルは、小さな土産物屋がいくつかと、軽食も出す喫茶店が一軒の、コンパクトな施設。出発の3時間前に到着してしまい、時間を持て余す覚悟を決めていたのですが、島のペースに慣れて、少しも苦になりません。東京だと信号に引っかかるだけで人生終わった気分になるのに。

その東京では、昭和レトロなるものが静かに流行っていますが、ここではリアルな昭和感が味わえます。忙しくても親切で優しい店員さんが運んで来たアイスコーヒーをちびちび飲んで待つのは、まるで古い映画の世界に紛れ込むような気分。徳之島ではすべてが物語です。

白く波の立つ徳之島の海岸を見下ろしながら、満席のターボプロップ機は鹿児島空港へ。足止めの白鷺号とはしばしのお別れです。

3日ぶりに戻った霧島の宿では、ただいま〜と告げると、名乗るまでもなく同じ部屋番号のルームキーを渡されました。演奏会は翌日なので、体力を養うために見晴らしのよい部屋のソファに腰掛けて、期日の迫った原稿を書いて過ごしていたら、いつの間にか日付が変わって朝に。

いよいよ最終の出番のために霧島市民会館へ。会場に着くと現地で借りてもらったエレクトーンが入り、音響の準備も整っていました。台風の影響で徳之島で足止めされている白鷺号に代わり、入谷麻友が駆けつけ、菊池玲那とともに手厚いサポートをしてくれます。加えて、音楽祭のスタッフは全員極めて優秀で気が利くので、奏者は何ひとつ言い訳ができません。

徳之島の穏やかな雰囲気そのままに、のびのびと始まったコンサート。比較すればここは大都会ですが、お客様は私たちのペースに付き合ってくださり、肩肘張らないくつろいだ会になりました。そうしたムードの中でも、私たちのアンサンブルはまた一歩進化したという手ごたえがあり、この先も機会を重ねて行けたらと願う気持ちが強くなりました。

こうして霧島国際音楽祭での私の9日間が終わりました。鷲尾麻衣さん、川久保賜紀さん、ふかわりょうさん、浅野祥さんと演じた54曲は、それぞれに胸を焦がし、鮮明な思い出を刻んでくれました。華やかなで盛大な音楽祭全体から見れば、ほんのささやかな役目ですが、やり遂げることができ誇らしく思います。

音楽祭のクライマックスは7月31日の宝山ホール、フィナーレは8月4日のみやまコンセール。きっと素晴らしいコンサートになることでしょう。東京の地より大成功を願っています。

おわり