川とともに生きる

2015年12月以来となる、2度目の人吉へ行って来ました。コロナと水害のダブルパンチで久しく例会を持てずにいた人吉労音クラシックの会。やっとの思いで漕ぎつけた復活例会の新スタートに、エレクトーンコンサートを選んでくれたことが本当に嬉しく、指折り数えて待っていたステージです。

市の中心を流れる球磨川はこの日、透き通る水が穏やかに流れていましたが、ひとたび陸に目を向ければ深い爪痕が随所に残り、かつてあったはずの建物がすっかりなくなっている様子に驚かされました。でも、人々の優しさは以前と少しも変わっていません。

この演奏会を待ちに待っていたのは私だけでなく、人吉労音の会員さんたちも久しぶりの生演奏に大きな期待を寄せてくれていました。音楽を全身で体感してもらえるよう、演奏曲目を考え抜き、東京で稽古を重ねて磨きを掛けていたのですが、ふと不安になったことがあります。

それは演奏曲目のひとつ、連作交響詩「我が祖国」第2曲・ヴルタヴァのこと。きっと人吉の皆さんの心に響くだろうと選びましたが、それはもしかしたら見当違いで、ご不快に思われるかもしれないと考えたのです。感覚というのは、やはり当事者でなければわからない部分がありますので、演奏の是非を直接尋ねることにしました。

私の不安を率直にお伝えすると、「何があっても、私たちは川とともに生きてますから」となんとも力強いお返事をいただき、この作品を演奏することへの思いがいやますことになったのです。

迎えた本番は、忘れがたい特別なものとなりました。前半のエレクトーンソロではひたすら願いを込めて気持ちを一点に集中して弾き、後半の平野雅世さんをお迎えしてのオペラアリアは、あまりに楽しくて、余計なことを考えずに弾きまくっていた子どもの頃と同じ心境でした。

もう音楽など不要な時代になってしまったのかと打ちのめされることが続いていましたが、そんなことはないときっぱり否定できる自信を与えてくれた人吉の皆さんに、心から感謝します。

前回は単身でしたが、今回はゲストにサポーターに両親にと本州から9人が集い、自分が6年でいかに豊かで幸福になったのかを実感する旅でもありました。