清里町は豊かな自然に恵まれた素朴な町である。周辺には世界的に注目を浴びるようになった知床をはじめとして、斜里岳、摩周湖、屈斜路湖、そして最近話題の神の子池など、観光スポットが数多く点在するにもかかわらず、町内に本格的なホテルは1軒もなく、民宿や小規模なホテルが数軒あるのみである。

この地を旅する人の多くは、斜里岳登山やバイクでのツーリングなど、アウトドア志向が強いので、リゾートホテルがあったとしても利用しないだろうし、大規模開発や整備のない、あるがままの雰囲気が味わえる環境という観点からも、立派なホテルはむしろ不必要だという気もする。

町内で最も高級な宿は比較的最近オープンした「ホテル清さと」だが、中心部から少し離れていることと、2食付きで1室4万円以上と驚きの高額設定のため却下。次の案はガクっとグレードが下がって、町営施設の「緑清荘」。この下は民宿かユースホステルとなるので、「緑清荘」で手を打った次第である。

ここは町民の研修施設と福利厚生を目的とした温泉施設を一体化した形で設けられ、オープン当初は本館しかなかったが、後に新館を増設している。本館の宿泊施設は、大広間をふすまで仕切っただけの構造で、プライバシーに不安があるが、新館は完全な個室になっている。

メインエントランスやロビーは、いかにも公共施設風。テレビが放映されて騒々しいロビーは吹き抜けの明るい空間だが、内装のテイストも質も図書館のような感じだ。フロントは役所の受付によく似ており、男性の係は生真面目で完全に公務員の様相だが、女の子は愛嬌があって可愛かった。

新館客室は2階にあって、館内にはエレベータがないため階段で向かう。シングル4室とツイン3室の他は和室だが、和室の方が斜里岳が望めて眺めがいい。今回用意されたのはツインルーム。ライトな木目とパステルカラーを基調とした明るい雰囲気だ。

レイアウトは至ってシンプル。ベッド2台と、デスクユニット、ふたつのアームチェアとテーブルという設備で、特にユニークな点もない。照明器具はダウンライトやブラケット、固定式のスタンドを設けている。空調はセントラルヒーティングの暖房と、個別式のエアコンとに分かれており、エアコンは冷房用となっている。テレビは14インチのブラウン管で、87年製とあった。LANはない。

室内にバス設備はなく、トイレとベイシンだけが設置されている。空間的にはバスタブが十分に置ける広さなのにもったいない。タオルは大小1枚ずつで、アメニティは歯ブラシとポーションパックのリンスインシャンプーのみ。カミソリとシャワーキャップはフロントに用意してあるとのこと。トイレ便座に洗浄機能は備わっていない。

室内にコンセントがひとつしかなく不自由したため、フロントに申し出て二股タップが延長コードを貸してくれるよう頼んだところ、大きな電気ドラムが届けられ、ややビックリしたが十分過ぎるほど役に立った。

入浴は温泉施設を利用する。ビジター利用は10:00から22:00だが、宿泊客には10:00から翌朝7:30までの間、深夜も含めて常時解放している。サウナや泡風呂もあるのだが、それは限られた時間にしか稼働していない。深夜使えるのもいいが、朝が7時半で終了というのは、ちょっと慌しかった。こうした時間設定も、客の都合よりも運営の都合を優先していることが感じられ、公共施設であることを強く印象付けている。

館内にある飲食施設「槿」は、町内では貴重な外食店である。内装も料理もサービスも大衆的で、町民に親しまれていることがうかがえる。手軽な店ながらも、カニはやっぱり美味しかった。また、土産物を扱う売店があるのだが、こちらはまったく盛らず、売っているものもすでに古くなっているような気がしてならなかった。

2泊したうち、初日は静かで快適だったが、2泊目は老人の団体と遭遇し、その騒々しさに辟易した。行儀が悪いのは若者に限ったことでないようだ。彼らは登山や釣りが目的でこの地に来ているらしいが、深夜まで扉を半開きにして部屋を往来し、しまいには廊下にまで出てどんちゃん騒ぎを展開していた。午前3時半、まだ酔いもさめやらぬまま、荷物をまとめて出発していったが、そんな千鳥足では滑落するのではないかと心配だった。

1泊目の朝食は膳に並べて提供されたが、2泊目はブッフェだった。内容は膳もブッフェもまったく一緒。焼鮭はさすがに美味しかったが、卵料理はレンジアップして破裂した目玉焼きでちょっと残念だった。