別海町交流センター 郊楽苑 Tatami Deluxe
Kou Raku En
2008.12.01(月)
北海道野付郡
喜-2

ガラスに映える夕日
 
動物たちの町 標津町での予定が終わり、次の目的地である別海町を目指す前に、もう一度開陽台に立ち寄ってもらえることになった。昨日は吹雪で何も見えなかったが、今日こそは絶景と謳われた眺めをこの目で見てみたい。開陽台に着いたのは、ちょうど日没の頃だった。

展望台からの景色は、文字通り360度のパノラマが広がり、北の大地の雄大さはもちろんのこと、北方領土の島々が泳いでいけそうなほどに近く感じられる。真っ赤な太陽が沈むと、すぐさま星が降り始め、にわかに風が草原を渡った。

金星と火星が目玉で、下弦の月がちょうど笑った口元に見え、まるでニコちゃんマーク。時計を見ると、まだ16時である。この季節、日の出は6時半くらいで、日没は15時40分頃だという。昨日は、日本が南北に広いことを痛感したが、今日は東西の広がりに圧倒された。この国は国土の広さよりも、ずっと大きなスケールを持っている。

美しすぎる夕暮れの余韻を感じたまま、別海町に到着した。ここは人間よりも牛の方が多い町である。どこかで聞いたようなフレーズだと思ったら、つい数日前に訪れた与論島だった。だが、ここは牛が多いだけではない。生乳生産日本一の町であり、まさに牛の王国だ。和朝食にも牛乳、バーガーにも牛乳。もしかすると乾杯もビールでなく牛乳なのではないかとか、牛が選挙権を持っているのではないかなんて、途方もない想像が膨らむ。

今日から3泊する宿は、別海町交流センター「郊楽苑」だ。別海町の高台にあり、周囲は豊かな自然に恵まれ、スポーツ施設も充実していることから、合宿などによく利用されているらしい。名前からもわかる通り、公共施設の典型であるが、現在は第三セクターにより運営されており、残念なことに2009年1月で閉鎖されることが決まっている。

交流センターというくらいなので、宿泊施設がメインというわけではない。研修や会議などに利用される他、温泉浴場は町民の憩いの場になっている。建物はかなり立派だ。民間が同様の設備を造るとしても、おそらく半分の予算も掛けられないだろう。外観はレンガ造りで、まるで美術館のよう。エントランスには迫力のある油彩が掛かり、吹き抜けのロビーには不思議なライブカメラシステムなるものが備わっていて、雰囲気的には市民会館のホワイエを彷彿とさせる。

フロントカウンターは、宿泊と日帰り入浴両方の受付を兼務している。役所の人のようにさっぱりとしているが、不快に感じる出来事はまったくなかった。客室は12室あり、うち10室が8畳、2室が10畳となっている。

今回用意されたのは2階の10畳間で、ここでは最も条件のよい部屋だ。それでも、室内にはバスルームはおろかトイレもない。あるのは水しか出ないベイシンのみである。これでは、いくら外観が立派でも、泊まる人が限られてしまうだろう。室内はシンプルな和室。しかし、とても清潔で、係が毎晩支度してくれる寝具も快適だった。暖房は窓際のヒーターのみだが、十分に暖かかった。

バスルームは温泉浴場を自由に使えるのでいいとしても、室内にトイレがないのは面倒。他に客もいないので気兼ねはいらないが、深夜にひっそりとした廊下に踏み出すのは肝試しの気分である。トイレの近くには洗面台が並んでおり、そこは湯が出るし、シャワーハンドルも付いているので、洗髪をすることも可能だ。

温泉浴場には、ブロアバスやサウナ、屋外岩風呂が備わっており、温泉は赤茶色をしている。夜は土木作業員の利用が多く、銭湯の雰囲気。皆、気さくに話しかけてくるので、退屈しなかった。大抵の場合、「にいちゃん、風体からして、ここいらの人じゃないだろ」から始まる。タオル一枚でいても、よそ者だってバレてしまうようだ。その後、「何する人?」とか「演歌歌手かい?」とか。「まあ、そんなものです」と答える方もいい加減だが。

そして、湯上りはやっぱり牛乳だ。食事はもっぱら2階にあるレストランを利用した。朝食は7時からで、その時間にはすでに卓に並んでいるので、ゆっくり目に来れば、それだけ長く放置されたものを食べなければならない。一応、連泊しても飽きないよう、毎日少しずつ献立が変わる。

夕食は1回だけ豪勢な料理を頼んでみた。ボリュームたっぷりで、やはり海の幸の新鮮さは格別だった。またある日には、ご当地名物を創作したとかで、ジャンボホタテバーガー&ジョッキ牛乳のセットなるものを注文してみた。バーガー自体は小さめで、なんでこれがジャンボなの?と疑問に感じたが、大きいのはバーガーでなくホタテのサイズのことだった。

確かにホタテはでかい。そして、ジョッキに入った牛乳は飲みきる自信がなかったけれど、飲み始めると結構いけちゃうもの。結局何も残さず、きれいに平らげた。店の窓からは別海の市街地を見下ろせるので、夜景がきれいなはずだが、店内が非常に明るいので夜景が殺されてしまっているのが残念。

また、サービスはやや難がある。食後のコーヒーがカップに半分しか入っていないのを見て、すぐさまコーヒーは大好きだからなみなみと入れて欲しいと注文をつけた。すると、「これはサービスコーヒーなので」と言い訳。いくらサービスコーヒーでも、半分というのはひどいじゃないかと、注文を苦情に変えてみたら、不機嫌そうにしながら一度下げた。再び運んできたのは、先ほど半分だったコーヒーに「湯」を足して一杯にしたもので、紅茶のように薄かった。ここまで根性が捻じ曲がっているとは困ったものだ。

滞在中は毎日予定が入っていたので、暇を持て余すことはなかったのだが、夕方早々と暗くなってしまうのは寂しいものだ。すぐ近くには「ふるさとの森」という湿原に遊歩道を整備した公園があり、散歩やジョギングに打って付けだが、日中でないと足元は危ないし、風景も見えないので、なかなか散策する機会がなかった。一度だけ、日没直前にひとっ走りする機会があった。

公園の入口には、動物たちが飼われており、役場の人々が面倒を見ているという。白頭大鷲やヌーなど、珍しい動物から、羊やポニーなど身近な動物まで、さながらミニ動物園のようだ。そして近まで寄れるのが面白い。

他にも別海には風光明媚なスポットがたくさんあった。移動の車中では、もう景色に釘付けである。美しい野付半島やのようなダイナミックな眺めや、小学校の校庭に茂る巨大な千島桜のように心に響く名物など、この町が観光名所としてあまり知られていないのが不思議だった。やはり、国際的なサービスを提供できるホテルが1軒もないというがネックだろう。キャンプや民宿の旅も悪くないが、上質なスタイルのある旅人を迎え入れる準備を、ぜひとも町をあげて取り組んで欲しい。

 
自然たっぷりの眺め 4時前なのに夕暮れ 日の名残り

和室 室内はシンプルで清潔 窓際のリビングエリア

玄関にある絵 フロント前 ロビー

ロビーを上から見下ろす 浴場の休憩室 客室階の洗面所

浴場 屋外岩風呂 浴場の庭

レストラン レストランからの眺め ジャンボホタテバーガー

夕食 ホタテ 陶板焼

朝食1 朝食2 朝食3

霧に煙る街並み 青空に映える外観 日没前の外観

敷地内の芝 千島桜 まっすぐな道

白鳥と鴨 人懐っこいグループ 用心深いグループ

ヌー ヤギ 羊

池 夕暮れの林 夕日

 郊楽苑(公式サイトは閉鎖されました)
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