2000.01.12
Adagio
「シルバーヒル」都ホテル東京
喜-2

緑に囲まれた白金に佇む都ホテル東京は、車での交通は比較的便利だが、最寄り駅から離れているために、通りすがりにふらっとという感じではない。それが静けさや落ち着きを保つためのありがたい要因にはなっているものの、ホテルの現状はそれどころではないのだろう。地下鉄の開通がいかに人の流れを変えるか、そこに大きな期待を寄せているに違いない。

立ち寄ったこの日も、平日とあってかずいぶんと閑散としていた。ところが、このホテルにはこのしんみりした風情がよく似合う。都心にいながらにして、ゆったりとした時間の流れに身を置くことができるのがいい。それほど高級でもないから、背伸びや緊張とも無縁だ。ロビーから庭園を左に眺めつつ、奥へ奥へと進むと、突き当たりにブッフェレストラン「シルバーヒル」が見えてくる。ランチタイムは1,800円で利用でき、サービス料が不要なのもオトクな気分にさせてくれるが、別にサービスが不足しているわけではなかった。よいサービスをしているとまでは言えないが、これ以下のサービスしかしていないのにサービス料を加算する店は数知れない。

ブッフェ台には20種近い料理が並び、その他にサラダやデザート、コーヒーなどが並んでいる。補充も頻繁に行われていた。毎度通っているとすぐに飽きてしまうのが、ブッフェレストランの難点だが、今回はこの店にはじめて来たので、どれもこれも初めての味とあって、おおいに楽しむことができた。ひとつひとつの料理のクオリティはそれほど高くはないが、コストパフォーマンスは悪くない。デザートも品数豊富で、アフタヌーンティ的な利用でも、損はないと思う。本来は廊下だったと思われる位置にも席が設えられているが、そこは背もたれの高いユニークなソファが置かれている上、窓からの緑も堪能できておもしろい。

2000.07.28
森林浴
都ホテル東京 Deluxe Room
楽-3

最大の魅力となるバルコニー。特に朝は爽快。これで5階からの視線だ。

都ホテル東京は、周辺を閑静な住宅街と豊かな緑に囲まれた、落ち着いた環境に位置している。地下鉄が開業するまでは交通の便に恵まれない印象があったが、目黒駅とホテルを結ぶシャトルバスが頻繁に運行されているので、実際にはそれほど不便を感じない。地下鉄が開通しても、最寄の駅からは徒歩数分を要するから、直接正面玄関まで連れて行ってくれるバスの方が便利かもしれないくらいだ。

そして、このホテルの魅力はなんといってもゆとりある贅沢な空間設計だ。駅前の限られた土地に窮屈な建て方をしたホテルと違い、まるでリゾートホテルのような開放感が得られる。エントランスにはドアマンが常駐し、荷物の世話をベルマンに引き継いでくれ、ベルマンの後をついてエントランスに入ると、天井の高いロビーラウンジが正面にあり、その向こうから大きなガラス窓越しに森の緑が視界に飛び込んでくる。とまぁ、昼間のチェックインならそのようにコトが運ぶはずだが、チェックインしたのはシンデレラが慌てだすような日付が変わるギリギリの時間だったので、ロビーはひっそりと静まり返っていた。それでもベルマンのサポートがしっかりとあって、都市型ホテルのスタンダードを守る姿勢が伝わってきた。

今回利用した客室は各階に2部屋ずつあるバルコニー付きのデラックスルーム。末尾が14番と32番デラックスルームに当たり、いずれも庭園側を向いているが、森はウイングの右半分に広がり、左半分は正面玄関上方の開けた部分なので、森に近い32番のほうが魅力的だ。しかも、あまり上層階にいくよりも低層階の方が樹々に近く、森に囲まれたような感じがしてよい。

バルコニーはかなり広々としていて、パレスホテルのバルコニー付きデラックスルームに匹敵する程で、しかも囲いが透明なので眺めもいい。小さなテーブルとイスがセットされているので、コーヒーでも飲みながら読みかけの本でも開くにはうってつけだ。ただし、虫の攻撃に注意。一方、室内は昔ながらの雰囲気で、壁紙や絨毯などがかなり年季を感じさせる。120×195センチのベッドが2台置かれているが、寝具は毛布でシーツが内側にしか張られていないセッティング。ターンダウンはなく、自分でベッドカバーをはがすのだが、髪の毛が逆立ちそうなほどに静電気が発生する。バチバチが苦手な人にはたまらないだろう。ベッドと反対側にはソファセットがあり、4人でもゆったりと座れる。卓上には都ホテルならではの冷水ポットが用意されていた。

古々しいインテリアのなかでは新しいテレビがかなり目立っていたほか、ライティングデスク上のPC用モジュラージャックや荷台の下にある室内金庫など、室内設備の充実にも力を注いでいるようだ。冷蔵庫は今時にしては珍しい引き抜き式。客室内は広いはずなのに、なにか窮屈だと思ったら、天井高が245センチと、このホテルのスタンダードルームよりもかなり低いことがわかった。バスルームは標準的なユニットバスで3.72平米の面積がある。なんの変哲もないバスルームだがユニークなのはウォシュレットのコントロールパネルがリモコン式で、ベイシンの上に載っていること。アメニティは最低限の品揃えで、タオルはちょっと薄めだった。あと、2階の客室をひとつ改装して、紙パック飲料やカップ麺などを扱った自販機コーナーを設けているのも、観光旅館風でおもしろい。

ベッドサイドにはナイトランプが3箇所についている ひろびろとしたリビングスペース

バスルームはシンプル アメニティとウォシュレットのコントロールパネル

日本料理「大和屋三玄」

池の動物たちを眺めながらの朝食が楽しみだった「クレドール」が、朝食営業をやめてしまい大ショック。仕方なく日本料理「大和屋三玄」をりようすることにしたが、結果的には大満足だった。朝食券などは持っていないので、メニューから自由にチョイスしたのだが、それが正解だったようだ。朝食メニューとしてはびっくりするほどに充実したメニュー構成で、オーソドックスなものからヘルシーなものまで、様々なセットメニューが用意されているほか、いろいろな小皿が追加注文できるので、朝から目移りしてしまった。料理も丁寧に作られており、大変おいしかった。朝食としてはかなりポイントが高い。

2001.06.14
回転椅子
都ホテル大阪 Standard Room
楽-1

リニュアルされた室内

都ホテルというと京都が本拠だが、その経営主体である近畿日本鉄道の本社はここ上本町にあり、このホテルはまさにそのお膝元にある。しかし、都ホテル東京が開業から20年以上たっても存在感がいまひとつ薄いように、都ホテル大阪も存在感はいまひとつ希薄なようだ。

ホテルは近鉄上本町駅と直結し、伊丹空港や関西空港、地方都市を結ぶバスターミナルや、近鉄百貨店もあってそれなりに便利なはずなのだが、あまり賑わっている印象はない。近鉄が難波まで乗り入れ、名古屋や奈良、京都方面へのターミナルとしての機能を近鉄難波と分け合うようになって、上本町が半ば通過駅のようなイメージになってたためだろうか。難波乗り入れはホテル開業より随分昔のことだから、街の賑わいを取り戻す装置としてこのホテルが企画されたのかもしれない。

ここはアジア系外国人の利用が比較的多いようで、ロビーやエレベータでも中国語が飛び交っているところは、銀座第一ホテルやサンシャインプリンスホテルに似ている。このホテルの建物は、設計者である村野藤吾氏の独自の美意識を感じさせるもので、雰囲気は村野氏の設計による他のホテルと共通している。1階の入口を入ったところにはシャンデリアが何基か下がっているのだが、空間に比べてやや小さめなためか、あまり華やかさはない。しかし、その外側の車寄せ部分の、緩やかなカーブを描いたモザイクタイルの壁や大地から立ち上がるような柱列などは、ディテールにこだわる村野氏らしいデザインだ。

以前利用した表通り側の客室は、床からの大きな縦長の窓だったが、今回利用した反対側の客室は、窓の腰が多少高くなっていた。部屋のサイズも少し小振りなようで、2つ並んだベッドが部屋の大部分を占めている。ライティングデスクは、角が丸みを帯びた村野風のデザインだが、イスはビジネスユースを意識したのか、車輪つきの肘かけつき回転イスが用意されていた。この車輪つき回転イス、座って仕事をしているときだけでなく、イスの背とベッドの間の狭い空間を通り抜けるときにも、イスをすっとよけられるので、狭い部屋では意外と使いやすかった。

ライティングデスクはさほど大きくないが、チェアは心地よい シングルベッドがふたつ並ぶ

シンプルなバスルーム 低層階からの味気ない眺望

2001.09.16
OLD&NEW
ロビーラウンジ「Bamboo」とグリル「クレドール」都ホテル東京
楽-2

こちらは改装されたロビーラウンジ「バンブー」

都ホテル東京では、大規模な改装に着手しているが、この度ロビーラウンジが新装オープンしたというので、早速のぞいてみることにした。

正面玄関から館内に入ると、すっかりと雰囲気が変わっていることに驚かされた。以前からあるスケールの大きい空間を活かしながら、モダンで温かみのあるインテリアに仕上げている。かつてロビーラウンジは一段低くなっていたが、エントランスホールとの間に仕切りはなく、待ち合わせで人を探すにはうってつけだっただけでなく、ちょうどエントランス正面に位置する一面のガラス窓から見える庭園の樹々が、訪れるものを圧倒した。今回の改装では、ロビーラウンジの床高がエントランスホールと同じになり、中央に暖炉を配した仕切りを設け、ラウンジ内の居心地を向上させた。床を歩くと仮舞台のような感覚なのは、底上げ工事の結果だろう。

店内には様々なカタチのイスとテーブルがならび、中央には泉をイメージさせる噴水があり、巧みに配した竹やオブジェがより立体感を持たせている。天井のライトは、オーロラのようにゆるやかに変化して、動きを生み出すなど、随所に工夫が見られ興味は尽きない。席に着けば広い空間に居ながらも、落ち着いて過ごすことができる。

サービスは溌剌としており、意欲が感じられるが、大きな声で「いらっしゃいませー」「2名様ご案内しまーす」と、だらしなく語尾を延ばして声を掛け合うのは下品だ。スターバックスと美容院を足して割ったような調子だった。料金も以前よりは高めの設定となり、通りすがりに利用するには納得がいくが、滞在中に気軽に何度も利用するのは躊躇される。

ラウンジを出たあと、館内をひとめぐりしてみた。フロント周辺は改装中で、現在は地下1階に仮設のフロントカウンターを設けて対応している。レストランは中国料理店とコーヒーショップが改装中のため、メインダイニングにあたる「クレドール」で朝食や軽食なども提供しているとのこと。様子を見に入ってみることにした。

メニューは軽食と通常のものとに別れており、軽食のメニューには、品数を絞り込み、オーソドックスな料理を中心に記載されている。スパゲッティとコーヒーを注文してみたが、注文を終えて周りを見回すと、コース料理を楽しんでいるゲストが多く、なんだかせっかくの雰囲気を損ねているような気がして肩身が狭かった。店内は木肌が美しい上質な空間で、窓からの風景とよく調和している。この店は改装することなくこのままにしておいてほしいものだ。

2001.11.10
LAN
都ホテル東京 Superior Room
怒-4

室内全景

改装を終えた8階禁煙フロアの客室を利用した。地下1階の仮設フロントで手続きを終え、まだ昔ながらのテイストのエレベータホールから、昔ながらのエレベータに乗り込んで8階に降り立つと、まるで別のホテルに来てしまったのではないかと思うほど、全く違った印象の空間に驚かされる。暖色系のカーペットとダークブラウンの家具を使い、ハロゲンを巧みに当てて陰影のある廊下に仕上がっている。廊下のところどころに掛けられた額には、それぞれ個性的な作品が飾られ、ひとつひとつに興味をひかれる。廊下を歩くことさえ楽しいホテルだ。

客室もまた、濃いテイストにコーディネートされており、以前の客室を知っていると、その変わりように圧倒されてしまう。ひとつひとつの材質はそれほどの品質ではないのだが、コントラストがはっきりとしているので、きりっと引き締まって好印象だ。扉を入ったところの床は、バスルームの床と同じ大理石風の人工石が敷かれており、絨毯の室内と雰囲気を違えている。室内には自慢のスーパーベッド2台、TV・ミニバー・引出しを兼ねたキャビネット、ライティングデスクと椅子2脚、カウチソファ、コーヒーテーブルなどが置かれているが、どれも存在感の主張が強い品物ばかりだ。

とりわけアクセントになっているのは、間接照明までセッティングした大きな観葉植物の存在で、これまでこうしたものはスイートなどの特別な客室にしか見られなかった。壁の一部を鏡張りにしたのも、客室をより広く見せる上でも効果的。もともとこのタイプの客室は天井が高いので、これだけ濃厚な仕上げが可能だったのだろうが、窮屈な感じがしないでもない。

バスルームはベイシンや壁材などを一新したが、バスタブとトイレは以前のものを活用している。鍵のない木製の引き戸を採用し、その扉を開けた正面に大きな額を配置。白い人工石と木の葉模様の壁紙のコントラストが印象的だ。そしてバスタブ上とベイシン上にハロゲンのダウンライトを設けることで、光の演出効果をあげている。アメニティは輸入物中心に、グリセリンソープやナチュラル成分のソープなど、ラディソンホテルの共通アイテムが揃う。タオルは3サイズあるが、バスローブは置かれていない。

概ね好印象の客室が完成したものの、疑問の残る部分が幾つか見受けられた。ベッドサイドにはフレキシブルチューブ状の読書灯が用意されているが、その他にナイトランプの類がなくベッド周りが薄暗い。ヘッドボードには間接照明が埋め込まれてるが、照度が低すぎるのになぜか調光まで可能にしてある。ほとんど存在価値のない設備だ。また、全体的に収納のスペースが少なく、特に引き出しが不足している。デスクと共に設置された回転椅子の座り心地は上々だが、後ろがつかえており窮屈に感じた。さらに困ったことに、真新しくなったサービスディレクトリーであるにもかかわらず、記載されているレストラン名や営業時間の情報が古く、間違った情報のまま堂々と放置されている。

この度の改装に当たっては、24時間無料で利用できるLANの導入も大きな目玉のひとつだった。この日利用した客室のデスク脇には、LANのジャックが設けられているものの、どうやらふさがれているようだった。フロントに電話をいれ、「LANはどうやって繋ぐのですか?」と尋ねると、「LANはありません」と強い口調できっぱりと言い切られた。「それはどういうことですか?」と問うと、「ここではLANのサービスはやってないんです!」と乱暴だといっても過言ではない冷ややかな言葉が返ってきて唖然とした。

その担当者は、今回の改装でLANが導入されることを知らなかった。その知識不足も問題だが、それよりもゲストからの問い合わせに対する姿勢に大きな問題を感じた。たとえその用意のない事柄に関する問い合わせであったとしても、役に立てない遺憾を伝える必要がある。ましてやこの場合、なくてはならないものがなかったのだから、丁重に詫びるべきであったにもかかわらず、逆切れされてしまった。なぜLANが使えないのかについては、アシスタントマネージャーが説明をしてくれた。単純に工事が遅れているのが理由だとのこと。そうであるならば、社内伝達を徹底し、ゲストからの問い合わせに備えるのはもちろん、代替案の用意くらいはすべきだろう。今回はラックレートで利用したが、とても損をした気分でホテルを後にした。

壁の鏡と観葉植物がいい感じ 自慢のスーパーベッドはウェスティンのヘブンリーベッドのむこうをはるのか

デスク脇にはファックスがある キャビネットはドッシリしている

バスタブとトイレは以前のまま シックなベイシンまわり

アメニティ 廊下

グリル「クレドール」

日替わりコース6,500円を注文した。突き出しがチーズのビスケットとは驚いたが、その後の料理は悪くなかった。内装の雰囲気に合ったオーソドックスなフランス料理に、各国料理のテイストと少々現代的なスパイスとを加味したイメージ。しかし、新しいものを目指すよりも、逆に他では味わえなくなりつつある伝統的な料理にこだわった方が、この店らしいような気がしないでもない。サービスに関しては、若々しくて明るい利発な雰囲気だが、この店の持つ時間の流れかたからすると、ややせっかちな印象もある。さほど忙しくないときには、ゆとりを大切にして、ほっと一息つきながら過ごせる空間を作り上げてほしい。卓上の一輪のバラが大層美しかった。

Y.K.