2001.11.13
美観と機能
フォーシーズンズホテル椿山荘東京 Superior Room
楽-4

ブルガリのアメニティ

ウィークデーの昼下がり、フォーシーズンズのロビーは人影もまばらで、ゆったりと上質な空気が流れていた。接した係はどの人もにこやかで優雅なだけでなく、自信と余裕と謙虚さが絶妙なバランスを保ち、常に心地よさを感じさせてくれる。この日はほとんど手ぶらだったので、客室への案内を辞退し自ら客室へと向かった。シックなデザインのカードキーで扉を開け、一歩室内に入った瞬間に感じるこのホテルならではの香りが、懐かしさと安心感を与えてくれる。

客室の清掃状況はパーフェクト。いつもどおり、床にも壁にも染みひとつ見つけることはできない。この客室は、ちょうど雁行しているコーナーに位置しており、客室の形状こそ普通のスーペリアルームと同じだが、気持ち幅に余裕があり広くなっている。また、クロゼットも3枚扉と広めだ。客室の色調はグリーンをベースにしたタイプで控えめな色使いをしているが、適度な華やかさが感じられる。

内装の流行は、時代の流れとともに変化してゆく。完成度の高いクラシックな内装でも、ファブリックの流行や求められる色彩感の変化に敏感に対応してゆかなければ、すぐに古臭くなってしまう。むしろクラシックこそ、常にモダンで最先端の要素を取り入れつづけなければならないのかもしれない。その点、フォーシーズンズホテルの館内は、客室に限らずどこにも古さを感じることはなく、開業から10年を経ているとは思えないほど新鮮さを保っている。メンテナンスの素晴らしさは、他に類を見ない。

時代の変化といえば、各種電子機器の発達と普及で、客室内でコンセントを使うことが多くなった。コンピュータや携帯電話の充電など、一度にたくさんのコンセントを必要とすることもしばしばである。コンセントの数が十分に備わっているホテルが少ないばかりか、まったくもって不足しているホテルが多い。このホテルの場合は、美観の関係でコンセントを隠しているのか、デスクの裏やドレープの裏など直接目につかない位置に設けられている。

もし、コンセントが美観を損ねると判断したとしたら、ナイトテーブル上のラジオ付き時計の方が、よほどこのテイストにはそぐわないような気がする。新しく導入された電話機も、機能こそ充実したがデスク上に以前置かれていたものの方が、この客室には似合っていた。美観と機能のどちらを優先させるかは、非常に難しい問題だと思う。

テレビをつけると、館内案内や緊急時の案内ビデオを見ることができる。内容は開業当時からまったく変わっていないので幾度となく見てきたビデオだが、今回しみじみと見たところ強い違和感があった。まず、早口すぎるし、声には品がない。言葉遣いは取ってつけたように慇懃で、イヤミな印象さえあった。これも時代の流れだろうか、開業当時よしとされていたものでも、2001年には通用しなくなっている。

バスルームのアメニティは、どの客室もブルガリ製品になった。高級ブランド商品なので、クラスは感じられるが、いかんせん香りが女性的すぎる。甘い香りを漂わせて業界連中との仕事に向かっただけで、陰で何を言われるかわからないのだ。

新型デザインのバスローブ

2001.11.13
接待
リストランテ「ビーチェ」フォーシーズンズホテル椿山荘東京
喜-5

大切なゲストを招いて会食をすることになった。「ビーチェ」での接待は、かつて大きな失敗をしたことがあり、それ以来避けていたのだが、今回は先方からの希望でこの店にした。結果的には大成功であった。

ゲストは主に外国人であるため、庭園の景観を満喫させてあげたいと考え、予約時には窓際でかつ静かな席をとリクエストした。ところが、すでに予約でふさがっているとのことで、個室を用意してもらうことにした。これなら景観は望めないが、落ち着いた雰囲気でゆっくりと話を進めることができる。

あらかじめ別の会場で話し合いを済ませてから食事をするという段取りにしてあったが、予定よりも話し合いが早く終わったために、「ビーチェ」へは予約よりも30分早く到着した。入り口で出迎えた係は、フォーシーズンズのイメージにピッタリの印象を放っており、とても感じがよく手際もよかった。席は予約通りの個室のほかに、空きがでた窓際の最も奥の席もあわせて用意してあるとのこと。どちらか都合のよいほうを選ばせてくれた。ゲストに意向を尋ね、窓際の席に座ることになった。

客席ホールはゆったりとした時間が流れ、とてもよい雰囲気だった。10年を経ても傷みは少なく、むしろ風格が増してきたように感じられた。サービスも非常に安定していた。若い給仕たちがよく頑張っている。以前見られたような尊大で気取った感じはどこにもなかった。余裕が出てきた証拠だろう。サービスの序列も完全に把握しており、終始安心して任せることができた。

料理の注文に際しては、いろいろとワガママにも対応してくれた。オペラの世界では超大物である今回のゲストはメニューを見ない。自分の食べたいものを給仕に告げるだけ。それができないからといって怒り出したりはせず、これはどうか、あれはどうかと終始給仕と直接交渉を試みている。結局、ゲストの要望はすべてかなえられた。

料理の出来栄えもまた素晴らしい。丁寧に調理され、美味しかった。量的には控えめなので、おなかが空いているときには、量を増やしてもらうか品数を増やすとよい。ワインリストの価格設定は、やや高めだと感じる。しかしソムリエのサービスは的確で、それに十分値すると思う。

2001.11.14
されどトースト
リストランテ「ビーチェ」フォーシーズンズホテル椿山荘東京
楽-5

朝食もまた素晴らしかった。一時期はなんとなくだれてきた感じがして、残念な印象をもったこともしばしばあったが、今ではそのことを忘れさせるに十分な、優雅で充実した朝食を提供している。サービスのスタイルは、だれていた時期とまったく変わらない。フォーシーズンズの実によくできたマニュアルに則ったサービスを、ずっと守り続けている。しかし、ちょっとしたニュアンスや、サービスをきらっと光らせる要素は、マニュアルに書き記すことはできず、同じことを実行していてもゲストが受ける印象は大きく変化する。それは、完璧な演奏法は書面にできても、感性のレシピは書けない音楽とよく似ている。

今回は、注文を受けるタイミングや、その間に垣間見せる給仕の仕草などに、洗練を感じ取ることができた。料理もよかった。トーストは薄く軽やかでふんわりとしていた。これほどのトースにトは、なかなかお目にかかれない。コーヒーも美味しい。思わず南の島を思い出すような味のパパイヤのジュースが「本日のジュース」として用意されていた。

Y.K.