1999.09.05
組織病
ホテル日航東京 Harbor View Room
怒-4

16番客室からの眺望

「東京バルコニー」というコンセプトがぴったりの素晴らしい環境と、贅沢な設備に酔いしれようと、少なからず期待して出向いたのだが、それを阻害するものがふたつあった。ひとつは客層、もうひとつは従業員だった。

前者については観光地的な場所柄を考えれば無理からぬことかもしれないが、ビーチサンダルとよれよれのTシャツで闊歩するお客の割合が、渋谷の街並みで見かけるのと大差ないのには驚いた。なにもバッチリ決めて来てほしいとは思わないが、少なくともだれと遭遇しても恥ずかしくない服装は心がけてほしいものだ。だらしない格好でホテル内をうろつくのは、わざわざタキシードに着替えて屋台のラーメンを啜りに行くのと同様ナンセンスに思える。

一方従業員の質については一口には言いきれないものがある。フロントやベルデスクでサービスに当たる若い従業員たちは、多くの場合一生懸命さが伝わってくるし、更にスキルが身につき始めて来た頃で、今後がとてもに楽しみだと感じさせてくれるケースが多かった。その中には絶頂期のシェラトンタワーズトーキョーベイでしごかれて来た従業員たちがおり、ここでは後進を育てる立場に回り、貴重な経験を生かす舞台を与えられているようだ。

そうした優秀な従業員とは対照的に、中堅の管理層や外注の業者たちの態度にはひどく失望した。今回の宿泊では、予定の時間より早く到着したわけでもないのにチェックインから客室に落ち着くまでに2時間も要したこと、お連れしたゲストの名前が間違っていたこと、そのゲストの客室料金が間違っていたことなど、ホテル側の不手際があまりに多かった。

さらに問題なのは、マネージャークラスの人間が、そのことに対してまるで開き直っているかのような対応をしたことだ。自分に対する不手際ならまだしも、お連れしたゲストに対してこれでは、黙って見過ごすことは到底できない。

問題が生じた時、事態を良く把握した上で、適切な処置を取ることも、マネージャークラスの仕事として最重要に挙げられるもののひとつだと思うが、決まりきったことにしか対応できないのには唖然とさせられた。察するに現場の責任者といえども、責任ばかりが大きくのしかかり、問題解決するに当たって必要な権限がまったく与えられていないようだ。

こうした組織としての体質的な疾病が散見されるホテルは、一朝一夕に向上することはまずない。このようなホテルは不愉快な思いをしてでも利用したいというのでなければ、宿泊候補リストから抹消するのが賢明かと思う。滞在中に接点のあった従業員たちの多くは、個人としてみれば、皆いいひとばかりなだけに、非常に残念だ。

このホテルは大きく弧を描いた外観を持っており、すべての客室にバルコニーを設けている。どの客室からもウォーターフロントらしい開放的な景観が望めるが、向きによって見た感じがかなり違うので、可能な限りリクエストをした方が良いと思う。もっとも多いハーバービューというタイプの客室は、各階30番までに位置しているが、19,20番を境にして番号が遠ざかるほどレインボーブリッジから逸れてゆき、25番以上になるとバルコニーに出ても横目でしか眺められなくなる。19,20番はデラックスタイプでバスルームの造りが少々違うばかりでなく、最高の眺望が約束されているので、むしろそちらの方に価値があるのかもしれない。

ハーバービュールームの面積は40平米で、空間配置を巧みに考え抜いた居住性の高い客室だ。ナチュラルカラーを基調としたインテリアもくつろいだ気分にさせてくれる。客室に入ってまず驚くのが、ベッドの大きさだ。このクラスの客室で140センチ幅のベッドが2台入っているのは珍しいが、ベッドはやややわらかかった。各所に引出しが多く、収納スペースが十分に確保されているのはありがたい。ドレープもデュベもコットン地のものを採用しているのでやさしいイメージだが、汚れが目立っているのは気になった。

その他、棚や部屋の隅などに埃が異常の積もっていて、不潔な印象があった。その他、さまざまな部分から客室の清掃は比較的おざなりだと感じさせられた。バスルームはやや細長く取られているが、とても機能的に造られている。バスタブは洗い場が併設されたタイプだが、ベイシン部分が非常に明るいのに対して、バスタブ部分には白熱色灯ひとつだけなので薄暗い印象だ。せっかく全体に大理石をふんだんに用いておりゴージャスなのに、バスタブやシャワーの水圧は乏しく、バスジェルを泡立てるのにも苦労する。

アメニティも豊富な品揃えで、オリジナル香水のサンプルまで用意されている。ユニークなのは、パジャマスタイルのガウンと縦縞の入ったバスローブで、女性には人気がありそうだ。ルームサービスの営業時間は午前6時から11時までの朝食と、午後6時から10時までのディナー、午後10時から午前5時までのサパーとなっており、お昼どきの営業をしていない。それもつい最近までディナーの営業が午後8時からだったのを2時間早めたばかりだ。開業当初に比べれば品数は豊富になったといえる。

「ベイサイドスパ然」を利用してみた。開業当時はリラックスとは程遠い、パワー全開のエクササイズが繰り広げられておりびっくりしたが、だいぶ、インストラクターたちがここのコンセプトに慣れて来たせいか、最近はエクササイズ中の音量も控えめになった。通常流れている音楽はバラード系の洋楽だが、もっとリラクセーション効果の高い環境音楽などを採用した方が、この空間にはふさわしいと感じた。従業員たちのサービスマナーも素晴らしくなった。

ベッドとソファ ライティングデスクとアーモア

ベイシンとトイレ バスタブと洗い場

中国料理「唐宮」

日航東京のレストランの味にはいつも驚かされる。それも、いい意味でだ。この店の料理人はただ者ではない。料理だけを考えれば「喜-5」を付けてもいいくらいだ。それに匹敵するくらいお値段も立派で、コースで7,000円から、季節のおすすめコースは10,000円で用意されている。この日はアラカルトからのセレクトでコースを仕立てた。丹念に作られ、季節感たっぷりに美しく盛り付けられた前菜に始まり、バナナの飴だきで締めくくるはずだったが、料理の出てくるタイミングがどんどんずれ込んで、かなりの間隔が開くようになり、しまいには待てど暮らせど出てこなくなってしまった。

そうこうしているうちに次の約束の時間になってしまい、デザートを口にすることができないままに席を立たなければならずとても残念だった。席を担当していた女性給仕の気遣いや取り分けの手さばきなど、申し分のない鮮やかさで好印象だっただけに、彼女も最後までサービスすることができず、さぞ口惜しかったことだろう。

素晴らしい料理は、絶妙のタイミングでもってサービスされて、その真価を発揮する。それが素晴らしい出来であればあるほど、料理そのものが食卓の環境とサービスのタイミングを要求するものだ。逸品はどうあっても逸品かもしれないが、ベーゼンドルファーのピアノを子供のオモチャにするのには賛成できないのと同じ理由で、この店を礼賛することはできない。

襟付きシャツの着用を謳っているにもかかわらず、Tシャツのお客がなんと多いことか。そういったお客に限って、つゆそばと点心だけで済ませている。ホテルレストランを利用するには、センスが必要だ。

Y.K.