1999.04.12
蟄居のススメ
パークハイアット東京 Park Room
楽-2

tea&coffee

G.M.だったデイビッドユデル氏が香港のグランドハイアットへ、副総支配人だった横山氏がシドニーのパークハイアットへ、頼りにしていた人々が去ってしまったので最近は足が遠のいていた。

このホテルはこの不況に奇跡とも言える好調な業績を誇ると同時に、東京でもっとも人気のあるホテルとして君臨している。その実力にあやかって大いに楽しませてもらいたいと期待をして出掛かるが、大抵の場合、いいことがひとつあれば、イヤなことがふたつ起こる。何度となく利用しているピークラウンジだが、未だかつて窓際に座ったことがないという不運に象徴されるように、パークタワーは鬼門なのかもしれない。今度は節分に宿泊し、豆まきでもするとしよう。

今回の事件は「ニューヨークグリル」で起こった。予約の時点で幾つかのリクエストを出してあった。まず、それ相当に薫り高いワインをあける予定なのでたばこの煙について配慮してくれるように、そして、プライベートな会話があるので他のゲストと肩をならべる形にならないようにという2点だった。この程度のリクエストなら、トップクラスのレストランであれば申し出るまでもなく配慮されてしかるべき事柄だと思うが、過去の経験から、はっきりと申し出ておくべきだと思っていた。

席につき、料理を考えながら、むしろ今日の主役になるワインを決めようと、リストを見ればカリフォルニア産のものしかない。これだけですか?と尋ねると、「他にフランス産、イタリア産などもあります」というので、そのリストを見せてもらった。する今度はとそのリストの片隅に「スペシャルセラーセレクションもご用意しております」というようなことが書いてあった。係を呼びとめそのリストを頼むと、人を見下すような非常に無礼な態度で「はい」と言い捨て取りに行った。しばらくして戻ってくると、相変わらず不遜な態度でリストを差し出す。

テーブルを囲んだ連れたちとは、彼のような人にペトリュスやオーパスワンなどの銘柄をサービスさせるのは作り手に対し失礼だとの判断で一致し、カリフォルニアの白で済ませることになった。実際には、2冊目のリストを持ってきた際に注文を急かされ、キャビアやオマールなど、フルボディーの赤ワインには合わないものをすでに注文してしまっていたという経緯もあったわけだが。

ワインが運ばれコルクが抜かれて、いよいよテイスティングという段になった。すると背後の席からもくもくとタバコの煙が漂って来て、ワインの香りを判断するような環境ではなくなってしまった。我々の席が禁煙席だというのは承知しているが、後ろの席はどうなのか?と尋ねれば喫煙席だという。はたして昨年10月にフォーシーズンズで経験したのと同じようなケースになった。

決して愛煙家を嫌っているわけではない。その権利に対しても敬意を払っている。ただ、喫煙が明らかに他人の楽しみを半減させる状況ならば遠慮してもらいたいとも思っている。なので、申し訳ないがいっとき後ろの席のゲストにタバコを遠慮してもらえるようお願いして欲しいと従業員に申し出た。おそらくこれをお読みの愛煙家の皆さんも、こうした状況であることを理解した上でなら、しばらくの間喫煙を控えるだけの美徳はお持ちだろうと思うし、パークハイアットのダイニングに集まる方々ならなおのこと、話は早いはずだと思ってお願いした。

我々のテーブルにはすでに料理が運ばれた後で、後ろの方々はまだ席についたばかりだということもあった。だが、結果的には先ほどの無礼な従業員がそれを引き継ぎ、同情も示さず、タバコを遠慮してくれとはいえなから、席を移ったらどうかと提案してきた。その席というのは、ぼくが避けて欲しいとお願いしてあった、隣のゲストと肩をならべることになる席だった。NGなものを二つならべられてその選択を迫られても埒はあかない。

それに従業員曰く、パテーションがないので煙が来るのは仕方ないとか、席を移る以外に方法はないそうだ。だが、ぼくはそうは思わない。そもそもサービス人の配慮が足りないからだ。いいレストランには禁煙席など必要ない。どこでだってタバコを吸いたければ吸えるのだ。給仕が席のアサインや食事中の配慮で、どのゲストの楽しみをも妨げないよう努めるのがレストランのサービスだと思う。

その配慮がしやすいように、丁寧に情報を流してあったのに、この店に対しては徒労だったわけだ。タバコの煙渦巻く中で香りが命のワインを抜栓することに抵抗を感じない給仕はプロでない。例えば、ぼくらが指摘する前に、「タバコの煙が気になりますね。申し訳ありません。」などの一言があれば、まだ堪えようもあったと思う。あるいは、担当した給仕が、このテーブルの楽しみを守るためにもう少し協力的な気持ちを覗かせでもしてくれたなら、ぼくらは堪えた。

しかし、彼の中には、そういった人間的な部分も、プロフェッショナルな部分も感じられず、ただ単に「Geek」に見えただけだったので、結局、テイスティングの段階で食事を断念し、我々は店を後にすることにした。その足でアシスタントマネージャーにこの件を報告し、改めて「ジランドール」に席をつくってもらい、今度は万全を期したサービスでもてなしてもらった。

ルイロデレールクリスタルと、軽い食事。みな気分的に疲れたというか、興ざめしてしまったのだった。このホテルでの食事は、申し訳ないが旨いと思ったことが一度もない。このホテルには雰囲気だけを求めて出掛けてくるのだ。それは店の設えとサービス、そしてゲストが織り成すハーモニーが調和して成り立つものだが、ここではいつも不協和音が聞こえる。

その後「ニューヨークグリル」のマネージャーとはじっくり話しをする時間を持てたが、彼は非常に熱心に耳を傾けてくれ、そのまなざしが真摯だったこともあり、とても友好的に話しができた。ぼくの期待が間違っているのかもしれないし、ぼくの意見など高々一顧客の声でしかないわけで、ホテルのポリシーや指針をどうこう言う筋合いではない。

ただ、「ニューヨークグリル」が街場のレストランであるならそれで構わないが、問題なのはパークハイアットというラグジュアリーホテルのダイニングだという点だ。例えば、堅苦しくないところがいいと評判らしいサービススタイルだが、ぼくには堅苦しくないというより、粗雑で気取っているようにしか感じない。ディスコやクラブのサービス並みだ。「トゥールダルジャン」のサービスだって、洗練はされているが決して堅苦しくなんかない。パークハイアットのサービス人は池の中の蛙なんだろう。もっと広くサービスを勉強して欲しい。また英語は達者だが本当に日本語がだめだ。

とまぁ、長々と話しているうちに、ぼくが期待していた事柄は、彼らが目指しているものと大筋で一致していることがわかり、少し安心したし、再訪する気持ちも戻ってきた。パークハイアットでは従業員も、また客もその名前に圧倒されているという印象だった。従業員は自分たちのサービスをよいものだと信じているし、お客さまはそれがよいサービスなのだと自分にすり込もうとしている。まるで裸の王様だ。

客室は確かに居心地がいい。適度な固さのベッド、肌触りのいいシーツ。ベッドから出たくないし、バスルームにもずっと入っていたい。快適な客室さえあれば、他には何もいらないから、チェックインしたらずっと部屋にこもって自分の時間を楽しみむのがベストかもしれない。

先だって値上げをした返礼か、無料のレギュラーコーヒーセットが用意されるようになった。また、バスルームのテレビでペイテレビやCATVも見られるようになった。モルトンブラウンのアメニティの香りのタイプが変わっていたが、その他大きな変化はなし。

清掃状況は概ねよいが、ベイシンの側面がかなり汚れていた。タオルで軽く拭き取るだけでかなり黒くなるほどだった。また、電動カーテンは接触が悪いのか、閉まりはすれども頑として開かなかった。バスローブとタオルの生地は相当にくたびれていた。シューシャインを頼んだが仕上がりが今一つだったので、道具を借りて自分すればよかったと思った。

今年の年末用宿泊プランのパンフレットが客室に置かれていた。12月31日は予約客以外立ち入れないそうだ。宿泊、パーティーともに専用のはがきで申し込み、抽選に当たった人だけ参加できるらしい。お値段もそれなりに立派。

チェックアウト後、正面玄関で車に乗る前に、客室に置き忘れてきたそのパンフレットをもらおうとお願いすると、「まだ、出来上がっていません」といわれた。でも客室にはあったと指摘すると、「宿泊のお客さまにはお配りしています」と答える。でもニューヨークグリルのレセプションにも山積みになっていたと教えてあげてやっと、「取って参りましょうか?」とイヤそうに言ってきたが、「もう結構です」と断った。無能な人にはもううんざり。このホテルでは、未だかつて一度もドアマンに車のドアを開けてもらったことがない。やはり、鬼門か。

今回「楽」としたのは、クラブオンザパークのインストラクターのサービスによるところが大きい。快活に話し掛けてくれるし、マシンの使い方やコツなどを親切に教えてくれた。おかげで運動不足のぼくでさえ楽しく汗をかくことができた。

closet box

bathroom amenity

Y.K.