1999.04.03
アンバランス
「ル・プティ・ブドン」鉢山町
楽-2

オシャレな街、代官山。その中でも話題の店がひしめく旧山手通りに、フィリップ・バットンの店「ル・プティ・ブドン」がある。モンスーンカフェとマダムトキの間にあるビルに、地階がレストラン、1階がパティスリー−サロン・ド・テという構え。

今回は週末のランチに訪れたが、半分程の席を埋めるにとどまり、ゆったりと食事ができた。と、言えるはずだった。予約時に、「今回は大切な話しがあるので、周囲のゲストが気にならない席を」とリクエストしてあった。また、シェフとはロイヤルパークホテル時代から10年来の面識があるのでご挨拶したいと伝えてあった。

実際に案内された席は、店内一番奥の席、というより「隅っこの席」と表現した方がふさわしいかもしれない。まぁ、確かに周りの客席は少ない。しかし、その唯一の隣席には子供連れのグループをアサインしているし、デシャップ台横の席なので従業員の動きが気になった。我々の席と反対側の道路に面したセクションは、天井がガラス張りでサンルーム風になっている。日中ならそちらの方がはるかに心地よいだろう。

まぁ、仕方ないが、この店の配慮はその程度のものだ。結局シェフは我々に気付くことが無かった。気付いて声を掛けてこない人柄ではないので、予約を受けた女性はぼくの言葉を伝えていなかったと思われる。それも納得できるくらい、予約時の印象は決して良くなかった。

料理は相変わらず好調だった。日本人の好みに合わせて味加減に妥協することはなく、フランス料理らしいガツンと力のある料理を出してくれる。バットンのスペシャリテはもちろん健在だ。メニューは昼間でもコースを設けず、すべてアラカルト。いわゆるアラカルトポーションと、デギュスタシオン向けのスモールポーションがデザート以外のすべての料理に設定されている。

1品ごとの価格はいたって良心的だ。しかし、昼にあれこれと注文しようものなら、たちまちグランメゾン顔負けの値段になってしまう。夜でも同じ価格だろうから、断然夜のコストパフォーマンスの方が高いことになる。また、スモールポーションは本当に「スモール」だ。料理の力強さを思うと、アンバランスな感じさえするので、あれこれ種類を頼むよりも、コレと決めた品を大きいポーションで注文する方がいいように思う。

ワインリストは手頃なものから、10万円クラスのものまでバラエティー豊富。グラスワインなら、その日のリストが黒板に書かれており、800円前後と手頃。だが、注文したグラスシャンパンはだいぶ気が抜けていた。ほとんど白ワイン状態。アペリティフは勧められたが、それを飲み干しても次は一向に勧めようとしない。リストを見せてもらいボトルを注文したが、すでにオードブルを食べている最中にテイスティングさせられるなど、あまり考えたサービスはしていないようだ

。また、十分な従業員数がいるがテーブルへの注意はやや散漫で、グラスが空になってもワインを注がないことが度々あった。軽い音楽と軽いサービスの中で味わう濃厚な料理と90年のYON-FIGEAC。そして、ややエキゾチックなインテリア。この店のテーマはアンバランスなのかもしれない。しかし、気のおけない友人との親密な会話は、どんな不足をも埋めてくれる。食事のあとも、近所のカフェミケランジェロに席を移して延べ6時間のおしゃべり。今日はとても楽しかったので、「楽」。

Y.K.